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地方の医師不足と新医師臨床研修制度[炉辺閑話]

No.4889 (2018年01月06日発行) P.17

猿田享男 (日本臨床内科医会会長・慶應義塾大学名誉教授)

登録日: 2018-01-01

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日本の専門医制度は専門医機構の皆様方の努力で、平成30年4月からの開始が決定された。最後まで問題となったのが新医師臨床研修制度の開始時のような大都市への医師の集中と、地方の医師不足の心配であった。

新医師臨床研修制度は平成16年に開始された。この制度の最も重要な点は、法律改正により、臨床医をめざすものは、卒後2年間大学病院または厚生労働省認可の臨床研修病院で研修を受けることであった。研修の義務化で給与が支給されたが、この制度では医師としての人格形成、医師の国民および社会への貢献の重要性の把握、一般診療と救急患者への対応能力を身につけること、が目的であった。この制度の開始時混乱があったが、13年経過後の現在、研修医の60~70%はこの制度にある程度満足しており、日本の若年医師の臨床能力は著しく向上した。

この制度の開始時に生じた医師不足の最大の原因は、従来の制度と異なり卒業生が卒後直ちに母校の希望する診療科に入室できなくなったことから、2年間にわたって各大学の臨床教室の人員不足が生じ、教室の運営が困難となり、地方の関連病院から医師を呼び戻したためである。しかし2年後、研修修了とともに多くの医師が大学に戻って希望の診療科に入室するようになった。その後、教室運営は徐々に改善し、関連病院に医師が派遣されるようになった。しかし、大都市在住で、地方の大学に入学していた方々の一部が都会に戻ったこと、都会の大病院の施設の充実を知って都会の病院で働くことを希望する医師が増加したこと等が、都市への医師集中の原因と思われた。

この改善策として、主要6都市の研修医枠に上限を設け、一方で、地方の大学や大・中病院では地域枠を設けて医師が留まる支援を開始した。これらの対策で現在この制度は安定した状態にあり、当初の目標が達成されている。

今回の専門医制度は、専門医の義務化ではなく、希望する医師がめざす制度で、自分の実力を向上させ、国民に貢献する制度である。

近年における都市への医師集中は、医師だけでなく、日本社会の変化への対策が必要である。

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