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オリンピックとスポーツ医学[炉辺閑話]

No.4889 (2018年01月06日発行) P.99

谷 諭 (東京慈恵会医科大学脳神経外科教授・第28回日本臨床スポーツ医学会学術集会会長)

登録日: 2018-01-06

最終更新日: 2017-12-22

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2020年の東京オリンピック・パラリンピックに向けて社会も盛り上がりをみせている中で、脳震盪など脳損傷に長年関わってきた医師として思うことがあります。

あのモハメッド・アリやアメフト選手など、多くのスポーツ選手が脳振盪を繰り返したことで、現役を引退してから、うつ状態をはじめとする神経心理学的異常や認知機能障害、パーキンソン病などを患うことがあります。これらを慢性外傷性脳症と称し、昨今、スポーツにおける脳損傷では一番の問題です(そもそも脳震盪を繰り返すのはスポーツ選手だけですから)。この問題は、以前から海外では重く取り上げられ、各スポーツにおいて種々の対応策がとられています。日本では認知されていないばかりか、まだまだ対応策も十分とは言えません。これは飲食店での喫煙と同じで、日本の健康に関する文化度が低いことの証拠では、と危惧しています。

1964年の東京オリンピックでは、戦後の復興著しい、強くてたくましい日本を世界に示すことが目的のひとつであったと思います。当時、スポーツ医学は黎明期であり、スポーツ現場でも「死んでもいいから頑張れ」的な根性論がまかり通っていた時代でもあります。今日からみると、前時代的なメディカルサポートしかなかったものと思います。

2020年も世界に日本を示せる機会であります。しかし、その内容は過去と同様なものであってはならないと思います。根性論がまかり通るような発展途上国的ではない、ヘルスコンシャスなスポーツが展開できれば、と希望します。

先の慢性外傷性脳症への対応ではありませんが、科学的に裏づけされた医科学がサポートするオリンピック・パラリンピックを催すことができれば、日本の成熟した文化を世界に誇示できると思います。そのためには、我々医療関係者もスポーツ医学により関心を持って、いろいろな場面でプロフェッショナルオートノミーを発揮して、大イベントのサポートをすることが大切だと思います。

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