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雑感─医学教育についての説明責任[炉辺閑話]

No.4889 (2018年01月06日発行) P.63

竹中 洋 (京都府立医科大学学長)

登録日: 2018-01-04

最終更新日: 2017-12-21

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医学部にモデル・コア・カリキュラムが導入されて15年余が経過している。少なくとも基準化・標準化が行われてもいい時間が十分に経過したと考えられる。一方、高大接続は盛んに言われるが、入学生のほうはどうだろうか? 医学部での教育の詳細を知って入学しているのであろうか? 医学部学生は教育について過不足のない情報をもらっているのであろうか?
先日、ラジオ番組に出演した。地元のH製作所提供のFM番組で、我々の大学は毎週火曜日に15分程度時間を頂き、教員や職員が自由に医学や医療を語らせて頂くことができる。月初が学長コーナーとなっており、10月は学園祭も近く、医学部の学生生活を紹介することとした。平均的な医学部学生は、ほとんど授業の選択性がない。特に単科の医科大学では、入学から卒業までの6年間、前も後ろも隣も変わらない同級生が学んでいることになり、人的交流も限定的である。また、授業の内容はモデル・コア・カリキュラムで指定されている。

4年から5年になるときにコンピュータでの全国共通試験(CBT)があり、成績の悪い学生は病院実習に進めない。2年間実習を重ね、「大学卒業試験」を受け、医師国家試験を受けて、やっと医師になれる。

アナウンサーは、綺麗な瞳を目一杯に開けて、「本当にそうなのですか」「それでお医者さんになられるのですね」と質問をされた。私は、「専門医とかになるためにはそれから6年ぐらいの研修期間が必要なのです」、と答えた。「内科とか外科のお医者様になるのは?」。「大学卒業後最低10年はかかるでしょう」。

番組終了後、「医学部に入っても大変なのですね」の声に送られて、大学へ帰る途中に、受験者や学生に医学教育についてしっかり伝えなければ、と改めて反省した。
昨年7月に諸般の事情から、医学部医学科6学年、看護学科4学年に学長との対話集会を開催した。

看護学科の学生の目的意識は明確で、早期に始まる実習の身近さも十分効果的であると印象を受けた。医学科の学生は、どのようにして医師になっていくのか、本当に理解しているのだろうか? 特に、4回生までの学生に対して有効な情報が行き渡っていないもどかしさがある。並行して推薦枠(地域枠)の学生に、大学として進路指導を行うプロジェクトを立ち上げてきた。彼らが、医師の過疎地に赴任をすること、そのために用意されている病院群での研修や、社会人大学院について、学年ごとに意見交換を開いている。3学年ほど過ぎた時点で、逆に本学では、地域枠以外の学生にも「医学部教育の全体像」を語っていないことを感じた。ラジオ出演から1週間が経過していた。

今まで、「医学教育の全体像を伝える」これらの作業は、どこで行われていたのか。教員が関わっていない場合、多くは部活などの密度が濃い学年関係の中で、不正確に行われていたのではないだろうか。教育に特化した職員の配置は、公立大学の常として、経費などの条件からきわめて困難である。教育センター教員の専従についても異議が出るところである。平成29年4月に、大学設置基準で示された教職員協働と、高度な専門性のある職種の設置が急務であることを再認識した次第である。

「医科大学の寄って立つ基本は、学部教育である」と自問自答する毎日が続いている。

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