カナダ・モントリオールのマギル大学ダグラス研究所は、本部キャンパスから離れたセントローレンス川沿いに立地し、キャンパスが所有する広い公園の木々は10月初旬の気温低下とともに少し色づきはじめた。バスを降りて7分の道のりでは、その季節を楽しむことができる。
今から半年余り前の2017年3月に第90回日本薬理学会年会(長崎)の年会長としての務めを終え、肩の荷を下ろした時期ということで、このエッセイ原稿の依頼がきたのだと理解している。しかし、2018年6月にも第40回日本疼痛学会会長、1年半後定年を控えた仕事のまとめや学生のことなど課題山積みで、エッセイ執筆に取りかかれずにいた。しかし、10日間のカナダ訪問を終えて帰国する前日に、このキャンパスの公園を散策していて、やっとこの原稿を書きはじめる気分となった。
宿泊しているアパートタイプのホテルはマギル大学医学系キャンパスの近くにとり、ダグラス研究所へは地下鉄とバスを乗り継いで行くことにした。イメージング研究、本部地区の疼痛研究センターでマウス光遺伝学からヒト慢性疼痛遺伝子バイオマーカーについての共同研究の打ち合わせを行っている。10月末には改めて10日あまり訪問してその続きを行い、今春をめどにそれらすべてのパイロット試験ができるような下ごしらえをする計画である。
定年を前に終わるための仕事を考えているうちに、また新しいアイデアが湧いてきて、それが国内外の友人に話すと一緒にやろう、と言うことになり、このような活動につながっている。ある種ガウディの「サグラダ・ファミリア」状態である。北米で定年の話をすると、例外なく「理不尽だ」との意見がくる。だからといって、今から北米の研究職PIを獲得して始めるには、かなり荷が重い。自分を含めて同世代の友人がどのような人生を選択するか、大変興味深いものがある。
幸い、今年から4年間の研究費の採択となっているので、最終結論までには少しだけ時間稼ぎができた。