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ヒトの体を進化から視る[炉辺閑話]

No.4889 (2018年01月06日発行) P.49

石田 肇 (琉球大学大学院医学研究科科長、医学部長)

登録日: 2018-01-03

最終更新日: 2017-12-21

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解剖学を生業としているので、進化に興味がある。ヒトの形態は、長い進化の過程を経ているので、原始的な生物の特徴を引きずっている。

たとえば、からだに前と後ろがある、左右対称である。ヒトの特徴としては、直立二足歩行、器用な手、両眼視と大きな脳、の4つが主なものであろう。我々は直立二足歩行の始まりをもってヒトの仲間と認める。ヒトでは、広く低い骨盤があり、関節する大腿骨の傾きが強くなる。さらに、腰椎の前方への彎曲が出てきて、頭蓋が脊柱の真上にくる。この特徴をもって直立二足歩行と断定する。

ヒトの腸骨の特徴は、まず、その高さの減少にある。その結果、仙腸関節が股関節に近くなり、腸骨にかかるストレスが、少なくなる。さらに、腸骨翼がカーブする。結果、中殿筋と小殿筋が外転筋として働くようになり、二足歩行には必須のものとなる。下前腸骨棘が発達し、大腿直筋直頭がつくというか、出現したのだろう。大腿四頭筋から大腿五頭筋になったと言ってもよい。ヒラメ筋も脛骨にヒラメ筋線という起始ができて、これも下腿三頭筋から下腿四頭筋となった。さらに、ヒトの胎児は脳が発達し、頭が大きい。しかし、直立二足歩行を行うので、骨盤の大きさには制限が加えられることになった。そこで、短い腸骨に加え、仙骨を下げて、産道の後壁とするように進化したのである。ここで、大坐骨切痕ができ上がる。

旧人(ネアンデルタール人)の骨盤も、現代人とはいくらか違う。恥骨上枝が長く、上下に扁平である。この結果、骨盤入口の前後径が大きくなっている。この原因として、妊娠期間延長説、大きい頭と低身長説、異なる歩行様式説など、諸説紛々である。現生の新生児の頭の大きさが骨盤の大きさに規定されることから、新生児の脳は成人よりはるかに小さい。この成長の遅れが与えた影響は、保育期間の延長である。チンパンジーの場合、6歳で思春期を迎えるが、ヒトでは12歳である。6年の期間延長がある。ただし、12歳で大人になるわけではないのは、周知のことである。我々はいつ大人になるのだろう。

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