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Morphologyって古いですか?[炉辺閑話]

No.4889 (2018年01月06日発行) P.48

佐藤洋一 (岩手医科大学医学部長、医学教育学講座/解剖学講座教授)

登録日: 2018-01-03

最終更新日: 2017-12-21

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形態学(Morphology)は、ドイツの文豪にして科学者でもあったGoetheが提唱した学問とされる。ドイツ留学時に通った語学学校の教材にGoetheが出てきて、そこで私は初めて、自分の専攻していた学問体系の名づけ親がGoetheであることを知った。しかもMorphologyというのは、どうも単なる形態観察だけの学問ではないことがわかった。「原型をもとに生命が変化していく様子を観照(Anschauen)する学問」であった。ところが現在では、Morphologyは多様な形を眺めるだけである、と思われがちである。ドイツ人も、Morphologyっていうのは収集した切手を眺めているようなものだ、と言っていた。

私の研究テーマは「細胞の微細な変化を時系列的に観る」ものである。Goetheの提唱したMorphologyの意義を拡大解釈すれば、これもまたMorphologyの範疇に入る。おこがましくも私は、Goetheの弟子となろう、と心に決めた。

さて、仕事として研究を進めるにあたって、形の変化を観るのは、きわめて手間がかかる。運動をする前と後では、目に見えた体の変化は起きない。したがって、運動したかどうか(=機能したかどうか)は形の相違を観ただけではなかなかわからない。しかも、時系列的に形態変化をとらえようと思ったら、かなりのサンプル数が必要になるのである。

多くの時間を費やした割に、書けるResultは数行でしかない。形の変化を観ること自体は好きではあったが、これではあまりに効率が悪い。どうにかして、「機能を観る」ことができないだろうか、という欲求が湧いてきたところに、知り合いの生理学の先生からカルシウムイメージングの手伝いをしませんか、というお誘いがあった。細胞内情報伝達系の要とも言うべきカルシウムイオン濃度が変化したのを「観る」ことができる手法である。演算装置の高性能化と微弱な光をとらえるカメラができたお陰で、変化を「測る」だけでなく、画像として「観る」ことができる。佐藤ならこれにはまるだろう、とのことで声をかけてもらった。

確かに、私はそれに捕らわれた。もっとも、単離された培養細胞には興味がなかったので、組織本来の形態を保ったままの標本で、言い替えれば本来の位置関係を保ったままの複数の細胞群でカルシウムイメージングを試みた。私たちの組織は多様な細胞から構成されているが、それぞれの細胞内カルシウム濃度変化を画像として記録できた。まさしく「機能を観る」ことが可能になったのである。折しも、日本バイオイメージング学会が設立され、それを通じて生命現象の可視化に挑む研究者の皆さんと知り合うことができた。

Morphologyと言うと、古くさい学問だと思われがちである。しかし、時間的・空間的広がりを意識して「観る」ということを心がければ、バイオサイエンスの中核に位置するのではないか、と思っている。Goetheは生命への賛歌を歌い上げた。個々の現象を生命体へ統合する見方もこれからのMorphologistには求められるであろう。

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