2017年3月に改正道路交通法が施行され、多くの認知症を疑われる人が診断のために認知症専門医のいる医療機関を訪れると予測されていた。しかし、実際は例年と変わりなく、増加することはなかった。東京の某大学病院精神科でも、増えることはなかったと聞いている。運転免許証を返納する人が増えたことがその原因のひとつかもしれない。認知症の人が自動車運転をすることは、一般の人から見れば危険なものかもしれないが、認知症だからといって安全な運転ができないわけではない。
運転免許証を更新できなくなると、生活に影響が出る人もいる。交通の不便なところに住み、買い物や通院に自動車で行っていた人への影響は大きい。運転ができなくなると外出の機会が減る人もおり、認知機能の悪化を促進することも考えられる。
一方で、改正道路交通法は認知症の早期発見に貢献する、という側面がある。運転免許証を更新する人は認知機能検査を受けるので、75歳以上で運転免許証を持っている人の認知症発見のスクリーニングとなる。その検査で認知症が疑われた人は、認知症かどうかの診断を受けるために受診をしなくてはいけない。そして、認知症の診断を受ければ、その人は早期に治療を開始することができる。認知症の人が今までと変わりなく住み慣れたところで長く生活するためには早期診断が必要で、改正道路交通法がその役割を果たしていると考えることもできる。しかし、更新時の認知機能検査でよい点が取れなかったから、と言って返納してしまう人がいれば、その中に認知症の人がいた場合には、早期診断を受ける機会を逃している、とみることもできる。返納が多いことは、認知症早期発見からみると好ましくないかもしれない。
さて、私自身が運転免許証を返納する立場になったらどうであろうか。私は、40歳のときに運転免許証を取得し、自動車を運転することが大好きである。運転は苦にならず、楽しく、趣味となっている。きっと、返納に抵抗し家族を困らせるのではないか、と思っている。