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精神科地域ケアにおける重い患者への支援[炉辺閑話]

No.4889 (2018年01月06日発行) P.30

窪田 彰 (クボタクリニック院長 )

登録日: 2018-01-02

最終更新日: 2017-12-20

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筆者は、精神科医として日々精神科地域ケアに取り組んでいる。日本の医療制度はどこで開業しても自由であり、患者にとっては医師を選べる自由があるのは素晴らしい国だと思ってきた。しかし、最近は日本のフリーアクセスにも課題が見えてきた。

日本の精神科外来医療は、患者が来てくれるのを「待っている」医療である。だが、幻覚妄想が激しく治療が必要と思われる患者には「自分は病気ではない」と医療を拒否する者がしばしばいる。このように、精神科外来では本人との間に治療契約が成り立たないと、放置されるか問題行動を起こして強制入院になることが多い。結果として、精神科診療所には重い患者は少なく、軽いうつ病や不眠症の患者が溢れている。

一方で、精神科病院には比較的重い患者が長期入院化しているのが日本の特徴である。これは世界的に見ても異常な現象で、主要先進国では精神科病院への入院は人口万対5~10人程度にもかかわらず、日本は人口万対25人という極端な多さなのである。この背景には、日本の精神科外来医療には重い患者を診る責任はなく、報酬は病気の重さに関係なく、診療した人数に応じて医療費が支払われることがある。そのためか、精神科診療所には自分から受診する軽い患者が溢れており、逆に精神科病院は入院が長期化し国の医療費に負担をかけている。

精神科医療における今日的課題は、この解決策である。筆者の提案は、欧米の実践に学び人口10~20万人に1箇所の「地域精神保健センター」をつくることである。地域に公的責任を持って重い患者の支援ができれば、長期入院から地域に帰る場と機会が提供できる。しかし、欧米の医療は公的システムであるが、日本は民間医療であるので一工夫が必要である。

そこで、全国の地域ケアに意欲のある民間の診療所や病院から、精神科デイケアや訪問看護等を実践する多機能型精神科外来の約600箇所を選び、そこに「地域精神保健センター」を各市町村から事業委託して、民間医療機関に半公的な役割を持たせる制度の提案である。

この「地域精神保健センター」に委託費を支出して、入院ばかりに頼らない地域ケアに責任を受け持つならば、国の経済的負担を少なくし地域での患者の生活が可能になる。このように、日本に公と民の良さが生きるオリジナルな精神科地域ケアの未来が開けることを、筆者は期待している。

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