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新専門医制度と産業医[炉辺閑話]

No.4889 (2018年01月06日発行) P.29

東 敏昭 (産業医科大学学長 )

登録日: 2018-01-02

最終更新日: 2017-12-20

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憲法上にある公衆衛生の向上には、社会医学・予防医学の分野での人材育成が必要と考えますが、喫緊の課題として、わが国の医師育成の中で本分野への有意な人材の参加が危ぶまれる事態が生じていました。それが、日本専門医機構が進める臨床系を対象とした専門医制度です。

当初、日本専門医機構が認定する「専門医」には、欧米では近似の制度に組み入れられている社会医学や予防医学分野の専門医育成の観点が欠落していました。この分野のないいずれかの基本領域の専門医取得を前提とした制度のもとでは、医学部卒業時に、将来の同制度に付帯した制約の可能性などへの憶測から、社会医学、基礎医学分野への早期参加をためらうことが危惧されました。そのため、日本産業衛生学会、日本公衆衛生学会、日本職業・災害医学会など8学会と全国保健所長会、全国衛生部長会、日本医師会、日本医学会連合など6団体が構成する、社会医学系専門医協会(法人として2016年に発足)が基本領域としての社会医学系専門医制度を創設し、2017年4月からこの制度の下で専門医育成を開始しています。

産業医の専門医にあたる日本産業衛生学会の産業衛生専門医は、この基本領域の2階部分にあたるサブスペシャリティーに位置づけられます。
筆者が籍を置く産業医科大学が実施する認定産業医講習会である夏期集中講座、東京集中講座には定員をはるかに超える応募者があり、毎年増加しています。専門性の高い産業医学基本講座にも本学卒業生以外の熱心な受講生があり、この分野への関心が高まっていることを実感しています。

働くことは人にとって生活の経済的基盤を築くのみならず、社会参加を通じての自己実現と、あわせて健康の維持増進に寄与する最も大きな要因でもあります。産業医学とその実践における産業保健は、社会医学の一分野として人の社会生活を守るとともに、人の特性と仕事との整合性(マッチング)を図る「適正配置」のアート(Art)と考えます。専門医制度の意義については弊害も含め議論のあるところですが、社会の基盤となる生産活動を支える意味も大きい産業医学、産業保健分野で、研鑽のあかしとプライドを持って活躍する人材育成につながる制度になれば、と期待しています。

今年、創立40周年を迎える産業医科大学は、日本の産業医学・産業保健の人材育成の核として、また、世界の産業保健研究、情報発信の拠点として一層認知されるよう努めていきたいと考えています。

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