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(2)インフルエンザ脳症・Reye症候群[特集:インフルエンザ合併症にいち早く対処する]

No.4886 (2017年12月16日発行) P.40

森島恒雄 (愛知医科大学客員教授/小児科)

登録日: 2017-12-15

最終更新日: 2017-12-13

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  • 今後ヒトに対する病原性の高いインフルエンザが流行し,小児で高サイトカイン血症が起きやすくなれば,インフルエンザ脳症の発症数はさらに増加する

    インフルエンザ脳症には,急性壊死性脳症,出血性ショック脳症,けいれん重積型,先天代謝異常に伴うもの,可逆性の脳梁膨大部病変を有する脳症などの病型が存在する

    けいれんや異常言動・行動が脳症によるかどうかの判断は重要であるが,必ずしも容易ではない。ガイドラインを利用し速やかに二次・三次医療機関へ紹介する

    脳症は進行が急速であり,診断の前段階から十分な支持療法を行う。脳症と診断された後はγ-グロブリン大量療法,ステロイドパルス療法,抗インフルエンザ薬を治療の三本柱とし,それに脳低温療法などを併用する

    早期診断・早期治療により死亡,後遺症とも大幅に減少し,脳症の予後は改善する

    1. インフルエンザ脳症の疫学

    1990年代半ば,わが国,特に北海道・関西地区でインフルエンザに伴った神経症状と多臓器不全による死亡例が報告され,その後1998/1999年シーズン,A香港型シドニー株の国内の大流行の中で,推定100例以上の小児死亡が報告された。それを契機に,厚生省(当時)「インフルエンザ脳症研究班」が組織され,本症の疫学,臨床像,病態,診断,治療などの研究が進んでいった。

    当時の全国調査では,インフルエンザ罹患後1~2日以内に,5歳以下の小児,特に1~2歳の幼児に神経症状(意識障害,けいれん,異常言動・行動)を発症し,致命率は30%,後遺症は25%と予後はきわめて重篤であった。インフルエンザウイルス亜型の中でも特にA香港型(AH3N2)が他のAソ連型(AH1N1)やB型よりも本症を起こしやすかったが,この傾向は最近弱くなっている。年間の小児発症数は100~200例と推定される。今後ヒトに対する病原性の高いインフルエンザが流行し,小児で高サイトカイン血症が起きやすくなれば,発症数はさらに増加すると思われる。

    2. インフルエンザ脳症の病型とReye症候群

    近年,臨床像や病態解析からインフルエンザ脳症にもいくつかの病型が存在することが明らかになってきた。

    1 急性壊死性脳症

    両側視床の病変(CTでは低吸収,MRIではT2強調像で高信号)が特徴である。インフルエンザやヒトヘルペスウイルス6型(human herpesvirus-6:HHV-6)感染に伴うものが知られている。一般に著しい肝機能障害など高サイトカイン血症の関与を疑わせる所見を伴う。脳幹病変を伴う場合は予後不良であることが多い。

    2 出血性ショック脳症(HSE)

    出血性ショック脳症(hemorrhagic shock and encephalopathy:HSE)は乳幼児に多い急性脳症で,高熱,意識障害,けいれん,ショック状態で発症し,水様下痢,肺・腸管からの出血を伴い,肝機能障害,腎機能障害,ヘモグロビン減少,血小板減少・凝固異常(DIC)などの検査所見を示して,急激に進行する。高サイトカイン・ケモカイン血症を伴う多臓器不全と考えられる。CTで早期に大脳全体の低吸収と腫脹,MRIでは両側前頭葉,頭頂側頭葉に対称性の大きな病変を認める。

    3 亜急性・二相性の臨床経過を示す脳症(けいれん重積型)

    典型例は,発熱の第1病日にけいれん重積で発症する。その後数日間は比較的神経症状が軽微であるが,第3~7病日に反復するけいれんが出現し,意識障害が再び増悪,ついで大脳皮質機能低下の症状(知的退行など)が顕在化する。この臨床型は,致命率は高くないが後遺症を残すことが多い。近年,この型が増加している。

    4 先天代謝異常症に伴うインフルエンザ脳症

    インフルエンザ脳症発症児の一部(約5%)に,有機酸代謝異常症・脂肪酸代謝異常症が関与している可能性が指摘されている。それまで健康であった小児が,インフルエンザ罹患を契機に意識障害を呈し,先天代謝異常症が発見される。強いケトーシス,低血糖・高血糖,高アンモニア血症,代謝性アシドーシス,高乳酸血症,凝固異常,高度の肝機能異常などが認められた場合,代謝異常症の関与を疑う。生化学診断では有機酸・脂肪酸代謝異常が関連することが多いが,これらはガスクロマトグラフィー質量分析法(GC/MS)による尿中有機酸分析,タンデムマスによるアシルカルニチン分析などによって診断される。

    5 可逆性の脳梁膨大部病変を有する脳症

    近年,「可逆性の脳梁膨大部病変を有する脳炎・脳症」という新しい概念が分類,提唱されている。本型脳症の病態は未解明であるが,臨床的には比較的軽症で,急性期一過性の意識障害と異常行動を示すが,後遺症なく回復する症例が多い。

    6 古典的Reye症候群

    インフルエンザや水痘などの感染症とアスピリン服用を契機に肝ミトコンドリアの形態・機能の異常が一過性に生じ,発熱が治まった頃に肝機能障害と高アンモニア血症から急性脳症をきたす。1970年代まで欧米で多くみられたが,当時のわが国では,比較的稀な症候群であった。先天代謝異常症やReye様症候群の混入の可能性があるため,これらの鑑別に努めるべきである。古典的Reye症候群の診断に際しては,特徴的な肝臓の組織所見ないし高アンモニア血症の存在,先天代謝異常症の鑑別が重要である。

    現在,わが国での古典的Reye症候群の報告は少ない。何らかの代謝障害が背景にあるとみられるが,十分な解析が行われる前に発症数が著減した。

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