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(2)向精神薬による内分泌障害 [特集:向精神薬がもたらす身体合併症]

No.4772 (2015年10月10日発行) P.26

坂本由唯 (弘前大学医学部附属病院神経科精神科)

古郡規雄 (弘前大学大学院医学研究科神経精神医学講座准教授/臨床教授)

登録日: 2016-09-08

最終更新日: 2017-02-10

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  • 副作用として内分泌障害が問題となる向精神薬は,主に抗精神病薬とリチウムである

    抗精神病薬による代表的な内分泌障害として,高プロラクチン血症が挙げられる

    高プロラクチン血症は,女性では月経異常,乳汁漏出症,性機能障害,不妊症など,男性では女性化乳房,性機能障害などを引き起こす。また,長期的には骨粗鬆症との関連も示唆されているが,いまだ明らかではない

    リチウムは代表的な気分安定薬であるが,副作用として甲状腺機能低下症,副甲状腺機能亢進症などの内分泌障害をきたしうる

    1. 抗精神病薬による代表的な内分泌障害─高プロラクチン血症

    近年,抗精神病薬は,精神科以外の診療科においても,せん妄治療や緩和医療における制吐薬などとして用いられる機会が増えている。しかし,副作用として高プロラクチン血症が生じうることはあまり知られていない。実際は,抗精神病薬を服用している患者のうち,高プロラクチン血症を呈しているのは,女性患者の約60%,男性患者の約40%と頻度が高く,決して無視することのできない副作用である1)

    1 プロラクチンとその制御機構

    プロラクチンは,主に下垂体前葉のプロラクチン産生細胞で産生されるホルモンで,乳腺発育促進作用,乳汁分泌作用,性腺機能抑制作用を有する。プロラクチンの血中濃度の正常値は,男性で10~20ng/mL, 女性で20~25ng/mLであるが,妊娠末期には200ng/mL,授乳期には300ng/mLに達する。日内変動も大きく,睡眠開始直後から分泌され朝方に向かって増大する。
    また女性においては,食後や排卵期周辺にもプロラクチンの血中濃度が高くなるため,月経7日以内に,起床数時間後で食事前,午前10~11時に採血するのが望ましいとされている2)。プロラクチンの分泌調整においては,促進因子よりも抑制因子のほうが優勢である。下垂体のホルモン分泌は視床下部によって制御されており,その視床下部で下垂体前葉からのプロラクチン分泌を抑制しているのがドパミン神経である。

    2 抗精神病薬の作用機序と薬剤性高プロラクチン血症

    高プロラクチン血症をきたす主な原因を表1 2)3)に示した。様々な薬剤が高プロラクチン血症を引き起こすが(表2)1)2),中でも最も頻度が高く,かつプロラクチン値が高いのは抗精神病薬である。抗精神病薬の主な作用は,ドパミンD2受容体遮断作用である。脳内には,中脳辺縁系,中脳皮質系,黒質線条体系,漏斗下垂体系という4つのドパミン経路がある。中でも中脳辺縁系におけるドパミン伝達の過剰が,幻覚・妄想など統合失調症の陽性症状に関与しているとされている。したがって,抗精神病薬のドパミンD2 受容体遮断作用が中脳辺縁系に働くと幻覚・妄想が軽減される。しかし,抗精神病薬は中脳辺縁系のみならず,下垂体からのプロラクチン分泌を抑制している漏斗下垂体系におけるドパミン伝達も遮断してしまう。これにより,下垂体でのプロラクチン分泌が抑制されなくなり,高プロラクチン血症が生じる。

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