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【私の一曲】モーツァルト:レクイエムニ短調(K. 626)

No.4686 (2014年02月15日発行) P.94

堀田 知光 (国立がん研究センター理事長・総長)

登録日: 2014-02-15

最終更新日: 2017-09-19

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ニコラウス・アーノンクール指揮による1981年の演奏録音は、ミュンヘン音楽大学教授でありビオラ奏者でもあったフランツ・バイヤーの改訂版を一躍有名にしたと言われる
〔写真は筆者提供〕

明日への気持ちを新たにしてくれる大切な一曲

私は1970年代から血液内科医として悪性リンパ腫や白血病など多くの難治性血液腫瘍の診療をしてきた。最近でこそ新しい化学療法や造血幹細胞移植、分子標的治療薬などの有効な治療法が開発され、進行期にあっても約半数の患者さんに長期生存が期待できるようになった。しかし80年代までは、化学療法がいったん奏効しても再燃や再発して末期を迎えるのが普通で、病棟では毎週のように死亡診断書を作成する日々であった。

治療の手立てがなくなった患者さんの無念の思いに接する中で、いつの頃からか、看取りの夜は帰宅後に書斎でレクイエム(死者のためのミサ曲)を聴くことが私の習慣となった。多くのレクイエムの名曲がある中で、モーツァルトの『レクイエム ニ短調』(K. 626)は透明感をもってまっすぐ心に響いてくる。これを聴くと、亡くなられた患者さんの闘病の日々を反芻し、また明日から少しでもよい医療の実践と、治療法の開発に役立ちたいとの気持ちを新たにしてくれる。

『レクイエム』はモーツァルト最後の作品で、彼の死により未完のまま残された。後に弟子のジュスマイヤーによって補筆完成されたことはよく知られている。補筆には様々な評価があるが、ジュスマイヤー版をもとにモーツァルトの本来の様式に改良されたバイヤー版が71年に出された。私は、バイヤー版によるアーノンクール指揮、ウィーン・コンツェントゥス・ムジクスの、けれん味のない、深い祈りの演奏(81年)が気に入っている。
近年は、臨床現場から離れて、聴くことが少なくなったが、大切にしている一曲である。

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