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(3)虚血性心疾患合併患者の消化器癌オペ時の注意点─循環器内科医に求めること [特集:チームワークによる 虚血性心疾患マネジメント]

No.4765 (2015年08月22日発行) P.33

橋本佳和 (杏林大学医学部外科学教室消化器・一般外科)

正木忠彦 (杏林大学医学部外科学教室消化器・一般外科教授)

杉山政則 (杏林大学医学部外科学教室消化器・一般外科教授)

登録日: 2016-09-08

最終更新日: 2017-02-14

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  • わが国では高齢化に伴い,虚血性心疾患の既往のある消化器癌患者を治療する機会が増えている

    周術期心筋虚血は周術期死亡の主原因であり,病態の把握と予防が重要である

    周術期マネジメントには循環器内科医や麻酔科医とのチームワークが必要不可欠である

    1. はじめに─外科医の立場から

    わが国では,予防医学や医療の進歩により悪性腫瘍による年齢調整死亡率は減少傾向にあるが,急速な高齢化に伴いその罹患数は増加傾向にある。国民の2人に1人ががんに罹患し,3人に1人ががんで死亡しているが,その中でも消化器癌の占める割合は大きい。
    筆者ら外科医が,手術の際に患者の併存疾患を把握することは周術期において最も重要なポイントの1つである。特に高齢者は,併存疾患数も多く様々な臓器機能が低下している場合が多い。その中でも心疾患に対する対処の重要性は言うまでもない。本稿では,虚血性心疾患を合併した患者の消化器癌をオペする場合の注意点において,特に循環器内科医に相談したいことや指示して頂きたいことを中心に述べる。

    2. 消化器癌患者の特徴

    消化器癌では腫瘍からの出血により貧血を呈する場合が多い。また,慢性炎症やエリスロポエチン産生の低下により慢性的な貧血を起こす場合もある1)。さらに,血小板数の増加や血小板凝集能の亢進が起こるとされ,血栓形成傾向のある静脈血栓症のリスクは非担癌患者の6倍に上昇するとされている2)。外科手術に関して担癌患者では,深部静脈血栓症のリスクは2倍高く,致命的な肺血栓塞栓症のリスクは3倍以上とされる3)

    3. 外科的侵襲─循環器系に及ぼす影響

    外科的侵襲は手術によって正常な生理的平衡を乱す有害な事象で,それに対する生体反応は循環器系に影響を与えることも多い。交感神経の興奮とアドレナリンの分泌は,心拍数の増加や血管収縮,血圧上昇をもたらす。体液を保持するためアルドステロンの分泌が促進され,レニン・アンジオテンシン・アルドステロン系が活性化されるとともに抗利尿ホルモン(antidiuretic hormone:ADH)が分泌され,尿量が減少し血漿浸透圧が低下する4)
    疼痛に対する反応でもレニン・アンジオテンシン・アルドステロン系とADHの賦活化により心拍数の増加,血管収縮,心収縮力増加,体内血流再分布,循環血液量の増加など循環系の変化が起こり,その結果,心拍出量の増加がみられる。出血に対する反応は,循環血液量の減少により,心臓と肺循環に存在する低圧系の圧受容器や血圧低下に伴う高圧系の圧受容器の減負荷をまねき,迷走神経反射の減弱から反応性に神経内分泌反応を惹起する。頻脈になるが血圧は上昇せず,血圧と心拍出量の低下をきたす。
    最近では,サイトカインの直接的あるいは間接的な刺激が心臓や血管に影響を及ぼすことがわかってきた。TNF-αは心筋や血管の収縮を抑制し,血圧の低下や代謝性アシドーシスを引き起こす。IL-1,IL-6も同様に心筋の収縮を抑制し血管に対しては拡張作用を有する。IL-8は,血管拡張作用や血管の透過性を亢進させる作用があり,IL-2は心筋に対して抑制を,血管に対しては収縮を増強させるとされている5)。このように外科的侵襲は,循環器系に様々な影響を及ぼす。

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