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乳腺外科学[特集:臨床医学の展望2014]

No.4689 (2014年03月08日発行) P.30

池田 正 (帝京大学医学部外科学講座主任教授)

登録日: 2014-03-08

最終更新日: 2017-08-14

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乳癌治療はより精緻化が進展

2013年も乳癌治療では多方面で進歩が見られた。個別化治療では,まずサブタイプを決定して予後を推定する,あるいは化学療法に対する感受性を決めることが標準となり,Oncotype Dxをはじめ,PAM50,IHC4,BCIなどの検査が比較検討されている。ただ,わが国ではまだDNA診断は保険適用されていない。術前化学療法は標準治療の1つとなったが,サブタイプにより病理学的完全寛解(pathological complete response;pCR)率や予後との相関も異なることが報告された1)。また,原発巣だけでなくリンパ節に転移を認めない状態をpCRと定義したほうが予後との相関が良くなることも報告されている2)

米国食品医薬品局(Food and Drug Administration;FDA)では,pCR率に基づく薬剤承認がなされるようになった。ER陽性乳癌においては,タモキシフェンの術後投与期間に関する2つの臨床試験結果が報告され,いずれにおいても10年投与の予後改善効果が示された。今後はすべての乳癌患者ではないにせよ,症例を選んで10年投与することが標準治療になると思われる。

HER2タイプ乳癌治療においても進歩が見られ,分子標的治療薬であるペルツズマブが承認販売され,トラスツズマブエムタンシン(ado-trastuzumab emtansine;T-DM1)も承認された。ペルツズマブはトラスツズマブとは異なる作用機序を有するため,両者の併用が検討され,dual blockade(二重阻害)が有効であることが証明された。今後,HER2タイプ再発乳癌のfirst line治療の標準となるであろう。

T-DM1はトラスツズマブに化学療法薬であるエムタンシンを結合させた薬剤で,今までにない作用機序の薬剤である。この薬剤がHER2タイプ乳癌のsecond line治療の標準となろう。トリプルネガティブ乳癌に関しては,さらに細分化して考えるようになってきたが,治療方法に関しては開発途上である。

薬物療法では,その効果を予測するバイオマーカーの研究が進んでいる。その1つとして血中循環腫瘍細胞(circulating tumor cells;CTC)や腫瘍マーカーが薬剤の効果による腫瘍の消長を反映するものとして利用されてきたが,2013年には腫瘍断片である腫瘍DNA(circulating tumor DNA)のほうが,さらに鋭敏に効果を反映することが報告された。今後,臨床で応用されていくものと考えられる。

乳癌検診の有用性に関してはその有効性が確認されている。しかし近年,検診のharmに関する議論が活発化してきた。最近発表された論文では,たとえば発見される早期がんの増加に比して進行がん数はあまり減少していないことから,死亡に直結しない乳癌を発見するというharmを犯している可能性が指摘され,大論争を巻き起こしている。

さらに2013年は,米国の女優が遺伝子検査を受けた結果,BRCA-1に変異が検出され予防的乳房切除を受けたことが話題になった。翻って,わが国ではまだBRCA-1, 2遺伝子検査自体が保険適用されていない。この女優は同時に乳房再建手術も施行したが,わが国の乳癌術後患者に関しては,tissue expander(組織拡張器),インプラントが保険適用になったことは朗報であった。日本乳房オンコプラスティックサージャリー学会も設立され,今後再建症例が増加することも予想される。

◉文 献

1) Houssami N, et al:Eur J Cancer. 2012;48 (18):3342-54.

2) von Minckwitz G, et al:J Clin Oncol. 2012; 30(15):1796-804.

最も注目されるTOPICとその臨床的意義
TOPIC 2/分子標的治療薬の進歩
最近は分子標的治療薬の進歩が著しい。がん増殖のカスケードが解明されるにつれ,ターゲットとなる部位の同定と創薬が進んだ結果である。乳癌の分野ではHER2タイプ乳癌に対する分子標的薬,ペルツズマブとT-DM1が承認され,日常臨床が大きく変わろうとしている。

この1年間の主なTOPICS
1 ホルモン療法の進歩
2 ‌分子標的治療薬の進歩 ─ ペルツズマブとT–DM1の承認
3 術前化学療法の精緻化
4 circulating tumor DNA
5 乳癌スクリーニングの意義

TOPIC 1▶‌ホルモン療法の進歩

乳癌治療においてホルモン療法は重要な位置を占めるが,2013年,2つの重要な発表がなされた。その1つは,抗エストロゲン薬であるタモキシフェンに関する話題である。これまでタモキシフェンの術後補助療法における投与期間は5年とされてきたが,carry over effectで生存率はタモキシフェン投与終了後もコントロール群に比べて改善し続けることが明らかとなっており,5年よりも10年投与のほうが生存率は改善するのではないかという見解から,無作為化比較試験(randomized controlled trial;RCT)が行われた。その結果が2012年末と13年春にかけて発表された。

1つはATLAS(adjuvant tamoxifen longer against shorter)トライアルで,世界規模で行われたタモキシフェン5年投与と10年投与を比較したトライアルである1)。早期乳癌3428例が10年投与に割り振られ,3418例が5年で投与中止とされた。その結果,ホルモン受容体陽性乳癌においては,無病生存率(disease free survival;DFS)で18.0% vs. 20.8%,生存率で18.6% vs. 21.1%と10年投与のほうが5年投与よりも良好であった。

2つめの試験も上記トライアルと同じデザインであり,英国内で行われたaTTom(adjuvant tamoxifen:to offer more?)トライアルである2)。このトライアルでは,タモキシフェン10年投与は5年投与に比して再発では580例 vs. 672例で,相対リスクは0.85と有意差を持って減少していた。しかし,乳癌死亡においては404例 vs. 452例で相対リスク0.88(P=0.06)とわずかに有意ではなく,この差は10年以降で大きかった。

そこでATLASとaTTomを併合解析したところ,1万7477例のER陽性乳癌症例では,試験開始後5~9年の乳癌死亡における相対リスクが0.97であるのに対し,10年以降では0.75で,P=0.00004で有意となり,全期間を通じても相対リスクが0.85(P=0.001)と有意差があった。この差は全生存率(overall survival;OS)においても相対リスク0.91(P=0.008)と有意であった。

この結果を受けて,乳癌術後ホルモン療法の施行期間が見直されつつある。しかし,全例への術後10年投与は非現実的であり,リスクの高い症例を絞り込んで10年投与する方向が予想される。その際,晩期再発リスクの同定が必須となるため,現在研究が進んでいる。

ホルモン療法に関する2つめの話題は,2013年12月の「サンアントニオ乳癌シンポジウム」で発表された乳癌高危険群閉経後女性に対する無作為化二重盲検群間比較トライアルの化学予防の結果である3)。このトライアルにはアナストロゾール投与群に1920例,プラセボ群に1944例が登録された。追跡期間中央値5年の段階で,アナストロゾール群において40例,プラセボ群において85例の乳癌が確認され,ハザード比0.47で,P<0.0001であった。死亡はアナストロゾール群で18例,プラセボ群は17例であった。このトライアルでは,プラセボ群での7年累積乳癌発生率が5.6%と高く示されたため,この結果をすぐにわが国に応用することはできないが,同じアロマターゼ阻害薬であるエキセメスタンを用いたNCIC CTG MAP.3トライアルでも同様の結果が示されており,将来的に高リスクグループを絞り込むことができれば臨床応用も考えられる。

米国ではすでに閉経前ではタモキシフェンが,閉経後ではタモキシフェン,ラロキシフェンあるいはエキセメスタンが化学予防に推奨されており,化学予防に関する米国臨床腫瘍学会(American Society of Clinical Oncology;ASCO)ガイドラインの改訂版が2013年にJournal of Clinical Oncology(JCO)誌で発表された。


◉文 献

1) Davies C, et al:Lancet. 2013;381(9869): 805-16.

2) Gray RG, et al:J Clin Oncol(ASCO Annual Meeting Abstracts). 2013;31(suppl;abstr 5).

3) Cuzick J, et al:Lancet. 2013;doi:10.1016/S0140-6736(13)62292-8.

TOPIC 2▶分子標的治療薬の進歩 ─ ペルツズマブとT-DM1の承認

分子標的治療薬の分野においてはHER2陽性乳癌治療薬の進歩が著しい。2013年6月にペルツズマブ(パージェタ®)がHER2陽性手術不能または再発乳癌に対し承認を得て,8月より薬価収載され使用できるようになった。

ペルツズマブは,すでに標準的に使用されているトラスツズマブとはHER2受容体の異なる部位に結合し,重合を阻害する。HER familyにはHER1からHER4まであるが,ことにHER2とHER3のヘテロ2量体が最も強大なシグナルを発生するとされる。ペルツズマブはこの重合を阻害するため,トラスツズマブと併用することで,より包括的で強力なHER2シグナル伝達阻害が達成できると考えられる。このdual blockadeの概念がCLEOPATRA(Clinical Evaluation of Pertuzumab and Trastuzumab)トライアル1)により証明されたため,わが国でもペルツズマブが承認された。

また,このトライアルでは,HER2陽性再発乳癌のfirst line治療として,ドセタキセル+トラスツズマブ+ペルツズマブをドセタキセル+トラスツズマブ+プラセボと比較し,無増悪生存期間(progression free survival;PFS)が18.5週 vs. 12.4週,ハザード比0.62(P<0.001)と有意にPFSを延長した。さらに,奏効率(response rate;RR)においては80.2% vs. 69.3%,OSではハザード比0.64(P=0.0053)と有意に延長した。

以上の概念は術前化学療法のトライアルであるNeoSphereトライアルでも有効であることが確認されている。

分子標的治療薬における2つめの話題はトラスツズマブエムタンシン(T-DM1,カドサイラ®)である。2013年2月のFDA承認に続き,日本でも9月にHER2陽性手術不能または再発乳癌に対し承認され,14年に発売予定である。この薬剤は抗体医薬であるトラスツズマブにチュブリン重合阻害薬であるエムタンシンを組み合わせた薬剤である。作用機序はHER2受容体にトラスツズマブが結合し,エンドサイトーシスで細胞内に取り込まれた後,エムタンシンが抗腫瘍効果を発揮する仕組みで,たとえるなら,核弾頭を搭載したミサイルのような新しいタイプの薬剤であり注目されている。

承認の根拠となったpivotal studyは,EMIL IAトライアルで,トラスツズマブおよびタキサン系薬剤を含む術前治療を受けた後,病勢が進行したHER2陽性手術不能あるいは再発乳癌を対象として,ラパチニブとカペシタビン併用療法を対照にT-DM1の効果を検討したものである2)。991例がエントリーされ,PFSは6.4カ月 vs. 9.6カ月,ハザード比0.65で有意に延長し,OS中央値も25.1カ月 vs. 30.9カ月,ハザード比0.68(P=0.006)で有意に延長され,かつ重篤な副作用は減少していた。

これらの結果から,HER2陽性乳癌治療は,第一治療薬がドセタキセル,トラスツズマブ,ペルツズマブのコンビネーション,第二治療薬がT-DM1に移行すると考えられる。

また,分子標的治療薬ではないが,先に述べた「サンアントニオ乳癌シンポジウム」でビスフォスフォネートの術後補助療法に関するメタ解析の結果が,Early Breast Cancer Trialists Collaborative Group(EBCTCG)より報告され,閉経後女性においてはビスフォスフォネートを投与したほうが骨転移事象が有意に減少するだけでなく,死亡も17%抑制することが明らかとなった3)。この報告により,これまでのビスフォスフォネート使用はOS改善に有効か否かに関する疑問に解答が示され,今後の乳癌治療における日常臨床が変わる可能性があると思われる。

◉文 献
1)Swain SM, et al:Lancet Oncol. 2013;14(6): 461-71.
2)Verma S, et al:N Engl J Med. 2012;367 (19):1783-91.
3)Coleman R, et al:San Antonio Breast Cancer Symposium. 2013(Abstract S4-07).

TOPIC 3▶術前化学療法の精緻化

術前化学療法に関するトピックはMinckwitzら1)から報告された。それは,術前化学療法において薬剤感受性の良好なバイオマーカーが確立されていない現状に鑑み,最初に抗癌剤で治療し,その反応により以後の治療を変更するとどうなるか,という考え方に基づき計画された無作為化比較試験の結果である。

上記のトライアルでは,2072名の患者にTAC(ドセタキセル,ドキソルビシン,シクロフォスファミド)を2サイクル行った後,反応があった患者はさらにTAC4サイクル,あるいは6サイクル追加群に,反応がなかった患者はTAC4サイクル,あるいはNX(ビノレルビン,カペシタビン)追加群に振りわけた。その結果,反応した群ではTAC8サイクルのほうが6サイクルよりもDFSが有意に延長しており(ハザード比0.78),反応しなかった群においてはNXに変更したほうがTAC6サイクルよりもDFSが良好であった(ハザード比0.59)。この結果はOSに関しても同様であった。また,DFSの延長はホルモン受容体陽性症例において有意であったが,受容体陰性症例においては有意差がなかった。

もう1つ,Minckwitzら2)は7つの無作為化比較試験における6377例の成績を併合解析し,病理学的完全寛解(pCR)の定義を予後の観点から解析した。原発巣でもリンパ節においても,腫瘍細胞がまったく見られない場合のDFSのハザード比が0.446であるのに対し,非浸潤部分が残存する場合は0.523,浸潤部分はないもののリンパ節転移がある場合は0.623,一部浸潤部分が残っている場合は0.727という結果であった。pCRはluminal B(HER2陰性)type,HER2,トリプルネガティブ乳癌ではDFSと相関していたが,luminal A typeあるいはluminal B(HER2陽性)typeでは相関していなかった。

術前化学療法においてpCRが予後と相関することが受け入れられるようになり,FDAが早期乳癌に対する新薬の承認にaccelerated drug approvalの適用を承認すると発表したことも注目された。術後補助療法の設定ではDFS,あるいはOSで有意差を出すには長期間のフォローアップが必要となり,この間,新薬が患者のもとに届かないことになる。この事態を解消するために標準的治療において,pCR率が十分に高い治療法を早期に承認しようとする動きであるが,対象はホルモン受容体が陰性,ことにトリプルネガティブ乳癌のような従来の治療法では再発リスクが高い症例を対象にすべきとProwellら3)は述べている。また,早期に承認してもその後,DFS,OSの改善などbenefitが証明されなかった場合,承認を取り消すこともあるようである。

長期毒性,稀な毒性検出のためにも今後も長期にわたりトライアルを継続することが求められている。


◉文 献

1)von Minckwitz G, et al:J Clin Oncol. 2013; 31(29):3623-30.

2)von Minckwitz G, et al:J Clin Oncol. 2012; 30(15):1796-804.

3)Prowell TM, et al:N Engl J Med. 2012;366 (26):2438-41.

TOPIC 4▶circulating tumor DNA

バイオマーカーの研究は進んでいるが,特定の薬剤の効果を予測するバイオマーカーはまだ数が少ない。ただし,再発乳癌の治療において効果を早期に予測するマーカーとして流血中の腫瘍DNAの研究が進んでいる。現在,治療に対する腫瘍の反応を,通常は画像診断で評価しているが,腫瘍マーカーが上昇していれば,腫瘍マーカーの消長で判断している。しかし,必ずしも早期に反応が現れるわけではないため,流血中の腫瘍細胞量を予後や治療に対する反応のバイオマーカーとして利用しようとする研究が行われてきたが,この方法でも早期に反応を予測するのに十分ではない。

2013年,流血中に腫瘍特異的な変異を持つDNA断片を検出すると早期に変化をとらえられることが報告された。Dawsonら1)によると,治療を受けている30名の女性転移性乳癌患者で腫瘍DNA,CA15-3,血中循環腫瘍細胞(CTC)を測定し,画像診断と対比した。実際にはまず原発巣の一部,あるいは全ゲノムシークエンスを行って体細胞DNA変異を検出し,それと同様の変異を流血中から検出した。その結果,流血中の腫瘍DNAは30例中29例(97%),CA15-3は27例中21例(78%),CTCは30例中26例(87%)で検出された。流血中の腫瘍DNAはCA15-3,CTCに比べてより変動が大きく,より腫瘍量の変化に相関していた。また,流血中の腫瘍DNAは19例中10例(53%)で,最も早く効果を反映していた。

このように流血中のバイオマーカーは,乳癌の診断,予後推定,治療反応や耐性を解析する道具として研究されてきた。しかし,腫瘍中ゲノムの不均一性などが明らかになるにつれ,普遍的で標準化されたバイオマーカーが要求されるようになってきた2)。このような方法は非侵襲的な液体生検(non-invasive liquid biopsy)と呼ばれ,真の生検に比べて何度でも検体を採取できるのが特徴である。この方法を使用した研究の一例が,Murtazaら3)の報告である。彼らは,転移性がんの治療によるゲノム変化を見る目的で,乳癌患者を含む6例で1~2年にわたり血清サンプルによるliquid biopsyを行い,exome配列解析を行った。アリルの定量解析を行うことで治療抵抗性の獲得と平行して変異アリルの増加が認められた。この中には,パクリタキセル治療後のPIK3CA変異,タモキシフェンとトラスツズマブ,それに続くラパチニブ後のMED1の短縮型変異(truncating mutation)などが含まれていた。

このような方法は非侵襲的に行うことができ,内臓転移のように生検が困難な場所でも採取が容易にできるので,薬物療法との関係のみならず,幅広い領域でのtranslational researchを加速させる可能性がある。


◉文 献

1)Dawson SJ, et al:N Engl J Med. 2013;368 (13):1199-209.

2)De Mattos-Arruda L, et al:Nat Rev Clin Oncol. 2013;10(7):377-89.

3)Murtaza M, et al:Nature. 2013;497 (7447):108-12.

TOPIC 5▶乳癌スクリーニングの意義

乳癌検診は早期乳癌の発見に役立ち,ひいては乳癌による死亡を減少させるとされている。しかし,2009年11月,米国予防医学専門委員会(US Preventive Services Task Force;USPSTF)は,それまでの推奨グレードBを40歳台女性に対しては推奨グレードCに格下げした。これ以降,検診のbenefitのみならずharmへの意識が高まった。乳癌検診の意義に関して2012年末に2本の論文が発表され,議論が活発化している。

その1つは,英国の乳癌スクリーニングに関するパネルが出した総説1)で,これまでに発表されたRCT,あるいは観察トライアルの結果を英国の実情,すなわち50~70歳までの女性を3年に1度検診する設定でレビューしている。11のRCTの併合解析では,検診を受けた群は受けない群に対して相対危険率が0.8となり,この数値は妥当なものと考えられた。

一方,overdiagnosis(過剰診断)の推定としてトライアル中にまったく検診を受けなかった人を対象とした3つのトライアルがあり,これらのメタ解析では,がん発見率はトライアル中で19%,長期を含めると11%と相対的に多かった。これらのトライアルはバイアスがあるなど種々の制約はあるものの,数値を直接当てはめると,50歳の英国人女性1万人を20年間検診した場合,43名の死亡が予防されるが,逆に129名の女性がoverdiagnosisされることになるという。

もう1つの論文は,1976~2008年までの米国のSEER(Surveillance,Epidemiology,and End Results)データにおける40歳以上の早期がんと進行がんの発生率をもとにした報告である2)。乳癌検診の導入により,早期乳癌の比率は10万人当たり112人から234人と倍増した。一方,進行がんの比率は102人から94人に8%減少した。担がん状態が一定とすると,余分に122人診断された早期乳癌のうち8人しか進行がんにまで至らないことになる。また,種々の因子を補正したあとでも,過去30年で米国内において130万人が臨床症状を呈するに至らない腫瘍を検出していたことになると推定された。以上より,乳癌検診は乳癌死亡に少ししか寄与していないのではないかと結論づけている。当然のことながらこの論文には多数のコメントが寄せられており,最終目標を死亡率減少におくと検診の評価がいかに困難であるかを物語っている。

これら2つの論文はわが国の状況にすぐに当てはめるわけにはいかないが,わが国においてはもう1つ検診に関する新たな試みが動いている。日本人女性の乳癌発症のピークは50歳前後であるが,日本人女性,ことに若年女性の乳房は密度が高くマンモグラフィー検診に適さないと考えられてきた。そこで日本では,乳癌の標準的診断法となっている超音波検診を取り入れようとする動きが始まっている3)。このトライアルはJSTART(Japan Strategic Anti-cancer Randomized Trial)と呼ばれ,40歳台女性を対象にマンモグラフィー検診のみの群を対照として,マンモグラフィーと超音波検診を併用する群を試験群としたトライアルである。2007年9月から登録が開始され,11年までに7万6000例余りが登録されている。主要評価項目(primary endpoint)は感度および特異度であるが,副次評価項目(secondary endpoint)として進行乳癌罹患率をとり,将来的には死亡率減少効果も検討する予定である。すでに登録は終了し,最初の結果が2014年に報告される予定である。感度は当然高いことが予想され,harmがどの程度かが注目される。


◉文 献

1)Independent UK Panel on Breast Cancer Screening:Lancet. 2012;380(9855):1778-86.

2)Bleyer A, et al:N Engl J Med. 2012;367 (21):1998-2005.

3)Sickles EA:Radiol Clin North Am. 2010;48 (5):859-78.

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