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(1)中小企業におけるメンタルヘルス問題の実情とその対策─中小企業こそメンタルヘルス不調を発生させない0次予防の取り組みを─【第5章 特別寄稿 日本の中小企業活性化を志すパイオニアたちからの提案】[特集:診療所職員のメンタルヘルス対策]

No.4705 (2014年06月28日発行) P.96

編集: 奥田弘美 (精神科医(精神保健指定医)/日本医師会認定産業医)

宮川浩一 (一般社団法人中小企業EAP普及推進協議会(ネクスティープ)代表理事/健康経営コンサルタント)

登録日: 2016-09-01

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  • 現在,多くの職場においてハラスメントや過重労働などを起因としたメンタルヘルス問題が取り上げられるケースが増えています。筆者の関わっている企業,とりわけ中小企業においては,それらの問題が発生してから場当たり的にしか対応してこなかったために,深刻なケースに陥っている企業も少なくありませんでした。中でも50人未満の事業所では労働安全衛生法上の産業医や衛生管理者の選任義務もないため,経営者の関心も薄く,事前の対策が行われていない企業がほとんどで,不調者が発生してから対応に苦慮するという状況が少なからず見受けられました。
    中小企業においては,メンタルヘルス対策に取り組んでいない理由として,不調者の発生の頻度やその認識不足から「必要性を感じない」というものもありますが,「どう対応していいかわからない」「専門人材がいない」「コストがかかる」といった回答からわかるように,人材や財政的に余裕のある大企業と同レベルの対応が難しい環境があります1)
    そこで,本稿ではメンタルヘルス問題における中小企業の実情や特徴を確認し,中小企業ではどのような対策を考え,実践していったらよいのかについて考察してみたいと思います。

    2 メンタルヘルス問題の現状と課題

    現在の日本社会では「グローバル化」「少子高齢化」「高度情報化」などを背景にうつなどの精神疾患になり,日常生活や仕事に支障をきたし,さらには自殺に至るケースも多く,深刻化しています。2012年には自殺者は15年ぶりに3万人を下回りましたが,依然として高い水準です。自殺者の8割から9割はその直前にうつ病や抑うつ状態などにあったとされています。
    そのような中,企業における健康管理,とりわけメンタルヘルス対策の重要性が認識されつつありますが,メンタルヘルス対策に取り組んでいる事業所の割合は全体で47.2%に過ぎません2)
    大企業では,90%以上は何らかのメンタルヘルス対策を行っているとされていますが,全国の企業数の99%,総従業員数の70%を占める中小企業では,十分なメンタルヘルス対策が行われていないのが実情です。中小企業が加入する全国健康保険協会(協会けんぽ)の2012年度傷病手当金の支給3)においても,「精神および行動の障害」が25.55%で最も高く,ついで「悪性新生物」(20.15%),「循環器系の疾患」(11.56%)となっており,従来トップだった悪性新生物を抜いて増加の一途にあります。
    このような状況は限られた人材に頼る中小企業にとって,大企業以上に経営へのリスクインパクトが大きくなっています。たとえば最近の傾向として,ハラスメントや過重労働などで精神疾患を患い自殺などに至った場合,安全配慮義務違反などを問われ,労災から訴訟に発展するケースも多く,多額の損害賠償請求を求められるケースも増えています。
    これは中小企業だからといって例外ではありません。大企業では時に数千万~億のお金を支払ったケースをよく耳にしますが,中小企業ではどうでしょうか。このような高額の支払いでは恐らく倒産せざるをえない企業も少なくないでしょう。損害賠償金額は企業規模,支払い能力に関係なく決定されるのです。
    このようなことからも企業,とりわけ中小企業におけるメンタルヘルス対策は喫緊の課題となっているのです。

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