貴院には職員に対し安易に怒声を上げたり,厳しく叱責したりしている管理職はいませんか?または「女性の職場だから仕方がない」と,職員同士のいざこざに対し見て見ぬふりをしていませんか?パワーハラスメント(パワハラ)やイジメが発生すると,被害者はほぼ確実に心を病んで職場に対する適応障害を起こします。現場での対処が遅れるとうつ病や心身症が重症化して長期休職してしまったり,退職してしまったりすることも少なくありません。
それに現在は行きすぎた叱責や職場のイジメは立派な労働災害(労災)として認定される時代です。場合によっては訴訟問題となり,経営者の責任が問われることもあるので注意が必要です。
厚生労働省は職場のパワハラとは,「同じ職場で働く者に対して,職務上の地位や人間関係などの職場内の優位性を背景に,業務の適正な範囲を超えて,精神的・身体的苦痛を与える,または職場環境を悪化させる行為をいう」と定義しています。
そして,職場のパワハラの行為類型を以下の通り挙げています。
これらの定義からすると,「人を深く傷つけたり,人格を否定したりするような怒声や叱責,非難」は立派なパワハラです。また職員間で対立し「一部の人を仲間はずれにする」「理不尽な業務に就かせる」または「仕事から干す」というのもイジメとなります。そして,被害者がそのストレスの結果,精神を病んだり身体の健康を害したりしてしまうと労災問題や労災訴訟となる恐れがあるのです。
このようにパワハラに対する社会的意識が高まったきっかけとしては,2003年に製薬会社の男性社員が自殺したというケースが有名です。これは上司によって「存在が目障りだ。いるだけでみんなが迷惑している,お願いだから消えてくれ」「お前は会社を食い物にしている,給料泥棒!」などの暴言を受けてうつ状態になり自殺したという事件です。男性の遺書に上司の暴言が記されていたのも証拠となって,男性の自殺は労災と裁判によって認定されました。(2007年10月15日東京地裁判決)
この事件によって職場のパワハラ被害に対する社会的な意識が高まった結果,2011年に厚生労働省によって労災の基準が緩和されました。そして,その基準中「ひどい嫌がらせ,イジメ,または暴行を受けた」という項目が心理的負荷の強度の最も強い「Ⅲ」とされたのです。
またこれを含め,パワハラ・イジメに関する項目も改定されました。以下に,改定後の「精神障害の労災認定」(厚生労働省)からパワハラに関連する恐れのある項目のみ抜粋してみました。
1つひとつ読んでいくと医療現場でも起こりうる事柄が散見され,ドキッとしてしまう院長も多いのではないでしょうか?これらの項目を総括すると「職務上の権限や上下関係,職場における人間関係などに伴う権力を利用し,業務や指導などの適正な範囲を超えて行われる強制や嫌がらせなどの迷惑行為」(全国労働安全衛生センター連絡会議による定義)がすべてパワハラに該当するということになります。
次に一般的な職場でよく発生しやすいパワハラのパターンを,わかりやすくまとめてみました。
職員を解雇するには正当な理由や根拠が必要です。解雇されるほどの理由がないにもかかわらず「○○しなければクビにするぞ」「いつでも解雇できる」などと脅す行為はパワハラと判断される可能性が十分にあります。また,「君はこの仕事に合わない。転職したほうがよい」などと退職勧奨をしつこく連日行った場合も同様です。
他の職員にも一斉メール配信しながら個人を怒る。大勢の顧客や職員の前で見せしめにするように怒鳴る。こうした叱り方は心に大きな傷を残し,場合によっては名誉毀損で訴えられる可能性もあります。
些細なミスであるにもかかわらず感情に任せて必要以上に怒鳴りつけたり,ネチネチと指摘を繰り返したりすることも典型的なパワハラです。1990年には上司の度重なる叱責や反省書の要求により労働者が心因反応を起こしたとして慰謝料の支払いが命じられました(東芝府中工場事件)。
時間内ではとても終わりそうにないような仕事を,あえて無理に押しつけたりすることもパワハラです。
仕事をする適切な場所を与えない,仕事自体を与えない,話し掛けてきても無視するという行為もパワハラやイジメに該当しうるものです。
就業時間以外の行動は基本的に個人の自由です。飲み会や行事に出るように強制したり,飲酒を強要する,私的な用事に付き合うことを強要するなども仕事上の権限を超えたパワハラとなりえます。
独身の女性に「付き合っている人いるの?」「なぜ結婚しないの?」「誰か紹介してあげようか?」などと本人が嫌そうにしているにもかかわらず過度に執拗に干渉する,宗教や趣味に関して,批判したり悪口を言ったりからかったりする,こうしたこともパワハラやセクハラに該当することがあります。
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