厳格な血糖コントロール・血圧管理は腎不全の進展を抑制する
血圧管理の薬剤は,レニン ・ アンジオテンシン系阻害薬(ACE阻害薬あるいはARB)が第一選択薬として推奨される
高血圧を合併する腎不全には減塩(6g/日未満)を行う
蛋白質制限は腎不全期には有効である
糖尿病腎症(以下,腎症)が発症・進展して腎不全となり,その結果,慢性透析療法が新規導入される患者は,この数年,横ばいから減少傾向にはあるが,腎症はいまだ主要原疾患の第1位を占めている1)。加えて,わが国の糖尿病データマネジメント研究会からのデータ解析によると,腎不全の有病率は2型糖尿病患者の2.7%であったと報告されている2)。
さらに,平成24年国民・健康栄養調査の結果では,糖尿病が強く疑われる者(糖尿病有病者)は約950万人と推計されており3) ,腎不全患者は約26万人と推算できる。これらのことから,糖尿病患者数が今後もわが国を含めた西太平洋地域において著しく増加することが予測され4),腎不全に対する治療戦略の向上によって,慢性透析療法への進展阻止のみならず,腎症の進展に伴って頻発する心血管疾患の発症を未然に防ぐことが望まれる。
腎機能・尿アルブミン/蛋白量の評価と合併症(糖尿病関連合併症:網膜症・末梢神経障害・心血管疾患,腎不全関連合併症:骨およびミネラル代謝異常・電解質と酸塩基平衡)の評価を行う。
腎不全期のGFR(glomerular filtration rate)の低下速度は,0~12.6mL/分/1.73m2/年とほかの腎疾患と比較して速いため,継時的に(数カ月に1回)推算糸球体濾過量(estimate glomerular filtration rate:eGFR)の推移をみることが重要である。eGFRは,日本腎臓学会が作成した推算式から求める。
eGFR(成人の場合): 男性=194×sCr−1.094×年齢−0.287
女性=194×sCr−1.094×年齢−0.287×0.739
腎不全期では,蛋白尿は高度となり,ネフローゼ症候群を呈する蛋白尿をきたすことも多い。尿蛋白量が多いほどGFRの低下速度が速くなるため,治療指標として,その推移,つまり尿蛋白量が減少しているか否かを治療効果の判定に用いる。蛋白尿の定量的評価方法は,〔1日尿蛋白量(g/gCr)≒ 随時尿蛋白量÷随時尿Cr量〕で,随時尿により評価する。
腎不全期には,全身に出血傾向の要素が加わる可能性があり,定期的な眼科受診による網膜症の管理を行う。
腎不全期では,ほぼ全例に合併していると考えてよい。手足のしびれなどの自覚症状の有無,アキレス腱反射・振動覚・神経伝導速度低下などの体性感覚・運動神経障害によって末梢神経障害を診断する。
シェロングテスト,CV R-R(coefficient of variation of R-R interval)の低下,胃腸症の有無などにより自律神経障害の評価を行う。時に,神経障害で知覚鈍麻をきたし,足指外傷の発見が遅れ,足指切断に至ることもある。
GFRの低下は,心血管疾患の独立したリスクであることが報告されている1)。したがって,予後・QOLに影響を及ぼす心血管疾患に対する評価は重要である。
①虚血性心疾患:糖尿病患者では,無痛性心筋梗塞を生じやすく,まずは“疑う”ことが重要である。さらに本疾患では,低栄養,貧血,運動耐容能の低下などにより,運動負荷心電図検査ができないこともあり,造影検査による腎機能悪化リスクも伴う。循環器専門医と密接に連携し,薬物負荷心筋シンチグラフィーや,造影剤を少量に制限した造影検査を行う。
②脳血管障害:頸動脈エコー,頭部CT・MRI(magnetic resonance imaging)・MRA(magnetic resonance angiography)などで評価を行う。
③閉塞性動脈硬化症:ABI(ankle brachial index),MRA,動脈造影などで診断する。ABIはスクリーニング検査としては有用であるが,糖尿病患者では,動脈中膜の石灰化のため偽陰性となる例も多い。また,造影検査は腎機能悪化リスクが高いことから,MRAが有用である。
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