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改めて『戦傷医療』を考える [炉辺閑話]

No.4837 (2017年01月07日発行) P.20

佐々木 勝 (内閣官房参与、東京都保健医療公社副理事長)

登録日: 2017-01-01

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平成27年4月から「防衛省・自衛隊の第一線救護における適確な救命に関する検討会」の座長を拝命し、戦傷による自衛隊員の犠牲者をゼロにする検討をしてきました。具体的な内容は防衛省・自衛隊のホームページをご覧ください。

北朝鮮からのミサイルがわが国の排他的経済水域に落下するなど、わが国周辺の情勢は戦闘とは無関係な一般市民が巻き添えを食い負傷を負う可能性が大きくなっていると考えられます。自らが平和に暮らしていれば戦闘には巻き込まれないはず、という想定を超えた事態を視野に入れた危機管理が必要な時代になってきています。自衛隊の是非はともかく、国のために戦う自衛隊員が負傷した場合に手厚い医療を受けられる体制を早急につくる必要があるにもかかわらず「犠牲者が出る、出ない」という議論に終始してきました。

既に実態として自衛隊員が海外派遣されていますが、派遣の是非のみが議論され彼らの万が一の安全安心が議論されていません。本検討会も第一線救護体制まで整えて自衛隊が戦争する体制づくりに協力しているとの曲解さえ散見されました。戦闘に及ばないはずだという想定の想定外を考慮し、負傷した自衛隊員のための医療体制を早急に確立あるいは充実させることが自衛隊職員の士気向上につながり、ひいては国家の安全安心につながると考え、この検討会の座長を拝命しました。

戦傷医療と平時の民間医療は根本概念や病態以外にも異なる点が多く、また、自然災害対応とも傷病者数、安全性、搬送時間など多くの点で異なっています。最大の違いは、医療に対する根本概念です。戦傷医療の目的は、①傷病者の治療、②さらなる傷病者の予防、③作戦遂行貫徹です。戦場での最大の治療は戦闘に勝利することなので、戦場では作戦の貫徹・成功を最優先し、民間医療では最優先するはずの救命行為は必ずしも優先しません。もちろん、戦場でも「医療は兵士にとっても作戦にとっても最良の結果」を期待されています。しかし、「良き医療は時として悪しき戦略であり、悪しき戦略は兵士を失うか、作戦が失敗する」を金言と掲げる戦傷医療は民間の救急医療を担う医療者がそのままでは戦傷医療を担うことは困難です。

医療は社会医学であり、社会とともにそのあり方も変容していくものです。今の時代に戦傷医療が必要であれば、戦闘行為自体の是非とは無関係に、戦傷に如何に対応するかを学問的に追及することが必要であると思っています。今回の検討は自衛隊員が対象で、しかも銃弾が飛び交う第一線での救護体制の向上を意図しています。しかしながら、戦闘行為の当事者ではなくとも巻き込まれ戦傷を受ける可能性があり、戦闘行為とは無関係に戦傷医療は国民の安全弁として必要です。また、ソフトターゲットと呼ばれる一般人を狙ったテロも、使用される方法や武器が多様化し事前の抑止が困難であり、武力への対処以外に犠牲者を最小限度に抑える医療体制が重要になります。従来このことが触れられてこなかったのは、恐らく医療ではなく戦争をイメージさせてしまうからだろうと思われます。「戦争」という国際法上あるいは戦争法上の概念が多様化し、人により「戦争」という言葉の解釈が異なり複雑になってきた今こそ、戦傷医療の体制を盤石にしておくことが国家国民の安全安心のためには喫緊の課題であると思っています。

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