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25年ぶりのミュンヘン再訪 [炉辺閑話]

No.4837 (2017年01月07日発行) P.125

松原正明 (日産厚生会玉川病院副院長・股関節センター長・整形外科部長)

登録日: 2017-01-04

最終更新日: 2016-12-26

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25年ぶりにヨーロッパの学会に参加すべくミュンヘンに赴いた。そこには、私が25年前に留学したミュンヘン工科大学がある。

当時単身赴任であった私は、日本の付き合い方を教えるという口実で、仕事が終わると同僚のドイツ人とよく近場の居酒屋に行き、ビールを飲みながら「日本式飲み会」をしたものである。帰国後は学会や観光でヨーロッパへ行くものの、ミュンヘンにはとんと縁がなかった。そんな私がミュンヘンで開かれる学会に参加することになり、25年も経過したからには、私がいた頃の街並みとは、すっかり変わってしまっているのではないかと、内心懐かしいような怖いような感情がないまぜになりミュンヘンの街に着いたのだった。ところが、驚いたことに中央駅に降り立ったとき、その景色は私がいた頃と寸分違わない姿を見せてくれたのである。

夢かと思い、地下鉄(U-Bahn)に乗ると、入線してきた車両もまったく以前のままだ。街へ出ればKarlsplatzの風景もまったく以前と変わりない。勤務先の病院も入り口が開き戸から自動ドアに代わったほかは、通った居酒屋も定期券を売っていたタバコ屋の場所も、そこの看板すら変化を探すことができないほど昔のままだった。まるでタイムスリップして過去に戻ったのかと思えるほどの変わりのなさに、自宅へ帰ってきたかのような安堵を感じるとともに、良いものは変えないというヨーロッパの奥深さを垣間見たような気がした。

よく欧米というが、ヨーロッパに留学してみて初めてヨーロッパとアメリカは違う文化だと、当時もその違いを実感したことを思い出した。医療においても技術革新は必要であろう。股関節を専門としている私のもとにも毎年のように新しい人工関節が米国から押し寄せてくる。しかし一方で、ヨーロッパ発のものは30年前と同じものを使用し続けている。代わり映えがしないと言えばそれまでだが、医療においても良い製品は永く使い、むやみにモデルチェンジをしないのはヨーロッパ流の考え方なのだろうか?

そろそろ我々人工関節外科医もトレンドに流されず、じっくりと腰を据え、信頼に足るものを選ぶ目を養い、末永く使う時期にきているのでは、と思うに至った今回の渡欧であった。

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