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灯台下暗し [炉辺閑話]

No.4837 (2017年01月07日発行) P.123

西村匡司 (徳島大学大学院救急集中治療医学教授)

登録日: 2017-01-04

最終更新日: 2016-12-26

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最近は通信技術が進歩し便利になってきました。大阪万博で初めて携帯電話が登場しました。一般に普及するには流石に若干の時間がかかったものの、その後の進歩は目を見張るものがあります。阪神・淡路大震災時には携帯電話の回線が不十分で公衆電話が活躍しましたが、今や昔話です。国内と同じ感覚で海外へも電話をかけることができます。かつて海外出張中は仕事のことは切り離すことができたものですが、今や多くの連絡・仕事が舞い込んできます。お蔭様で、時差ボケで眠れない夜にどうやって時間をつぶすか悩まなくてもよくなりました。電車に乗ると多くの人が熱心にスマホやタブレットを見ています。ゲームやネットサーフィンに興じているようです。いつでもどこでも情報が手に入り、ゲームを楽しむことができる。こんなに便利なものはありません。

医療も変化し、大病院にしかなかった機器が広く普及し、患者の安全につながっています。私の勤務する集中治療室では重症患者監視装置が非常に重要な機能を発揮します。心電図、血圧ばかりではなくパルスオキシメーター、カプノグラムなど多くの情報が入ってきます。デジタルで数値を提供してくれる情報源は、医学部の学生や研修医にとってありがたい存在です。

しかし、便利なものは、何かとても大切なものを持ち去っていったような気がします。ゲームやインターネットに興じているとバックパックが他人に当たっても、当たっていることに気づきません。妊婦や体の不自由な人が立っていても気づきません。患者自身の発する情報をとらえる診察をする前に、患者監視装置が発する情報で患者の状態を把握したような気になり診察がおろそかになります。

一番大切なことは、自分で視て、聴いて、感じることです。患者の表情、呼吸数や呼吸パターン。脈拍数を数えるために握った患者の手の温もり。いかなる情報よりも正確に病状の経過を反映します。便利さに目を奪われて、本当に大切な身近にあるものを見逃しているのではないでしょうか。ほんの少しでもいいので自分自身で自分の周りのことを視て、聴いて、感じてみる。とても大切なものが見つかる気がします。

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