株式会社日本医事新報社 株式会社日本医事新報社

CLOSE

精神疾患の診断を法廷など有罪・無罪の明確な境界がある場面に持ち込むことについての考え方 【鑑定医個人の見解ではなく,診断基準に則った見解を前面に出すべきである】

No.4835 (2016年12月24日発行) P.55

村井俊哉 (京都大学大学院医学研究科精神医学教授)

村松太郎 (慶應義塾大学医学部精神・神経科准教授)

登録日: 2016-12-22

最終更新日: 2016-12-13

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
    • 1
    • 2
  • next
  • 殺人などの重大事件の精神鑑定では,精神科医による精神疾患の有無の判断が,有罪か無罪かの判断に大きく影響します。症状が重症で精神疾患があると確実に判断できる場合もあれば,きわめて軽症で,精神疾患があるかないかの判断がきわめて難しい場合もあります。単純な二分法で白黒を決定することができない精神疾患の診断を,法廷のように有罪・無罪の明確な境界がある場面に持ち込むことについて,精神医学の専門家,法律の専門家は,それぞれどのように考えているのでしょうか。
    慶應義塾大学・村松太郎先生にご回答頂きたく存じます。

    【質問者】

    村井俊哉 京都大学大学院医学研究科精神医学教授


    【回答】

    法は人を有罪か無罪かにカテゴライズします。明確な二分法です。

    法はその前提として,被告人が精神障害か否かを問います。精神障害により,理非善悪の弁識能力またはその弁識に従って行動する能力が失われていれば,心神喪失と認定され無罪になるからです。ここでいう精神障害とは何を指すのか。それは法には明文化されていませんが,パーソナリティ障害は指さないのが通例です。

    弁護人は無罪をめざします。検察官は有罪をめざします。ですから,弁護人が統合失調症だと主張すれば,検察官は統合失調症型パーソナリティ障害だと主張します。弁護人が妄想だと主張すれば,検察官は支配観念だと主張します。

    では,精神医学的にはどう判定できるのか。鑑定医にはその説明が求められます。判定が困難なことがある一方で,容易なこともありますが,それでもなぜ容易に判定できるのかと法律家から問い詰められたとき,明快には説明できないことに気づかされることもしばしばあります。診断名にしても症状名にしても,精神科医は経験に基づく理念型に大きく依拠して判定していることが,経験を共有しない法律家に精神医学的事項を説明するとき強く実感されます。

    残り739文字あります

    会員登録頂くことで利用範囲が広がります。 » 会員登録する

    • 1
    • 2
  • next
  • 関連記事・論文

    もっと見る

    関連書籍

    もっと見る

    関連求人情報

    もっと見る

    関連物件情報

    もっと見る

    page top