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不育症例に対する抗凝固療法と対応 【血栓症の既往・家族歴のないプロテインS軽度低下例では積極的な治療は推奨できない】

No.4815 (2016年08月06日発行) P.53

森下英理子 (金沢大学大学院医薬保健学総合研究科 病態検査学教授/附属病院血液内科)

登録日: 2016-08-06

最終更新日: 2016-10-30

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【Q】

不育症例に対する抗凝固療法をときどき依頼され,対応に苦慮することがあります。具体的には,血栓症の既往,家族歴がなくプロテインS(protein S:PS)活性50%前後の軽度低下例,第XII因子欠乏例,第XII因子欠乏例で抗フォスファチジルエタノールアミン(anti-phospholipid antibody:抗PE)抗体陽性などですが,このような症例に対するアスピリン,ヘパリンの投与についての必要性,妊娠後期・周産期の対応についてご教示下さい。金沢大学・森下英理子先生にお願いします。
【質問者】
張替秀郎:東北大学大学院医学系研究科血液・免疫病学教授

【A】

(1)血栓症の既往,家族歴がないPS活性低下例
平成23年度厚生労働科学研究班(齋藤班)の報告では,不育症患者527例中PS欠乏症は7.4%(39例)と一般人口より高率に認められました。また,治療に関しても妊娠10週までの初期流産を繰り返した既往があるPS欠乏症妊婦に低用量アスピリン療法を行うと有意に生児獲得率が高くなり(25/35例),妊娠10週以降の流・死産の既往がある場合は,次回妊娠時に低用量アスピリン・ヘパリン併用療法(11/14例)を行うと低用量アスピリン単独療法(1/14例)よりも有効であると報告されています。
一方,海外ではPS欠乏症と習慣流産や子癇との関連性を示唆する報告もありますが,どの研究報告も症例数が少ないため,PS欠乏症と不育症との関連は現時点では不明とされています。米国産科婦人科学会では不育症リスク因子のスクリーニング検査として,PS活性測定を推奨していません。また,最近報告されたCochrane Databaseのreview(文献1)によると,先天性血栓性素因保有者を含む原因不明の習慣流産患者に低用量アスピリン単独,あるいはアスピリン・ヘパリン併用療法を行っても,生児獲得率は改善しないと報告されています。
以上より,現時点では血栓症の既往,家族歴のないPS活性50%前後の軽度低下例の不育症患者に対する定まった治療法はなく,少なくとも積極的な抗血栓療法は推奨できないと考えます。実際には,凝固活性化マーカーの変動を慎重にフォローしながら,経過観察していく必要があります。なお,PS活性は妊娠で生理的に低下するので測定時期に留意し,非妊娠時(流産後なら少なくとも2~3カ月後)での測定が望ましいと考えます。
(2)第XII因子(FXII)低下例,FXII低下例で抗PE抗体陽性例
FXII活性の低下(39%以下)は不育症と関連することが報告されていますが,FXIIを完全に欠損する場合でも流産しないこともあり,FXII欠乏症と不育症との関連は現状では不明です。ただし,FXII活性の測定法は活性化部分トロンボプラスチン時間(activated partial thromboplastin time:aPTT)を用いているので,ループスアンチコアグラント(lupus anticoagulant:LA)陽性(特にリン脂質中和法で陽性)の場合は影響を受けます。実際,LA-aPTT陽性(リン脂質中和法が陽性)例ではFXII活性が26%程度低下することがわかっています(文献2)。LA陽性は重要な不育症の危険因子なので,LA-aPTT陽性のFXII活性低下症例は低用量アスピリン・ヘパリン併用療法が必要ですが,リン脂質中和法陰性のFXII活性単独低下であれば治療の必要はありません。
抗PE抗体は測定法が定まっておらず,また不育症の危険因子としての検査の意義も現時点ではまだ確立されておりません。抗PE抗体はLA-aPTTと関係しますが,抗PE抗体IgG単独陽性例は無治療でも70%出産可能であるとの報告(文献3)があります。したがって,LA陰性であればFXII活性低下抗PE抗体陽性例は,無治療にて慎重な経過観察でよいと考えます。

【文献】


1) de Jong PG, et al:Cochrane Database Syst Rev. 2014;7:CD004734.
2) Asano E, et al:PLoS One. 2014;9(12):e114452.
3) Obayashi S, et al:J Reprod Immunol. 2010;85(2):186-92.

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