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トリプルネガティブ乳癌治療の新展開 【化学療法への反応性などの性質によって乳癌のタイプを細分化し,標的にあわせた治療法を模索】

No.4805 (2016年05月28日発行) P.54

岩瀬弘敬 (熊本大学乳腺・内分泌外科教授)

登録日: 2016-05-28

最終更新日: 2016-10-26

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乳癌はエストロゲン受容体,プロゲステロン受容体,ヒト上皮増殖因子受容体2型(HER2)の組織内発現により性質が異なる。この3つの因子がすべて陰性の腫瘍はトリプルネガティブ(TN)乳癌と呼ばれる。TN乳癌は化学療法による奏効例が多い一方で,予後の悪い病態とされる。その理由は,TN乳癌がヘテロジェナイティの高い集団であり,化学療法に対する反応性も多様だからである。したがって,TN乳癌を細分化し,各特徴を標的とする治療の開発が望まれている。
TN乳癌には,遺伝性乳癌の原因であるBRCA1/
2遺伝子の生殖細胞変異を有する症例がある。BRCA1/2はDNAが細胞分裂の際に損傷を受けた場合,2重鎖DNAを修復する。一方,PARPは1重鎖DNAを修復する。そこで,BRCA1/2が機能しない細胞にPARP阻害薬を投与すると,2つのDNA修復機能が働かなくなり,「合成致死」と呼ばれる細胞死が誘導される。PARP阻害薬は遺伝性乳癌卵巣癌症候群を対象として臨床応用の段階にある。また,TN乳癌には,アポクリン癌として分類される集団があるが,その組織内にはアンドロゲン受容体が発現するため,抗アンドロゲン薬の標的として考えられている。さらに,TN乳癌に認められる遺伝子異常はがん細胞膜上の抗原提示を亢進させることより,免疫チェックポイント阻害薬が奏効すると考えられ,抗PD-1/PDL-1抗体の治験が始まっている。
このように,様々な標的が挙げられており,既知の薬剤との組み合わせにより,TN乳癌は予後が大きく改善すると見込まれている。

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