新渡戸稲造による“Bushido:the soul of Japan”は1900年米国で刊行、世界中の言語に翻訳されている。08年『武士道』として日本語訳が出版され、38年の矢内原忠雄による名訳は岩波文庫に収められ現在も読み継がれている。93年、奈良本辰也 訳・解説による現代語版(三笠書房)が出版された。
「武士道」の言葉は、武田家臣春日虎綱の口述による『甲陽軍鑑』に見られるが、儒教(朱子学)により武士の道徳観を説明しようとした山鹿素行の士道論は、日本社会の道徳規範として育まれてきた。武士道は、儒教、仏教、神道を取り入れながら、日本の風土の中でその土壌から生い立った思想の展開であり、わが国の自然環境、社会環境の協働により作り上げられてきた規範である。
道徳規範は社会の中での個人の行動を規定する。私たちは行動を通貨として社会生活を営むのであるが、内的衝動と外的規範のバランスにより個々の行動は決定される。武士道は、わが国が作り上げてきた優れた外的規範であり、自己の行動を制御するための指針にほかならない。
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