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経口第3世代セファロスポリン系抗菌薬投与の必要性の有無

No.4725 (2014年11月15日発行) P.55

上田晃弘 (東海大学医学部総合内科)

登録日: 2014-11-15

最終更新日: 2016-10-18

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【Q】

わが国では第3世代セファロスポリン系の経口薬が外来診療で多く処方されています。しかし,外来診療においてはこれらの経口薬は不要であるとか,米国では使用されていないとも聞きます。実際のところはどうなのでしょうか。もし不要とすれば,代わりにどのようにすればよいでしょうか。東海大学・上田晃弘先生のご教示を。
【質問者】
笠原 敬:奈良県立医科大学感染症センター講師

【A】

まず外来診療で第3世代セファロスポリンを使用しなければならない状況を考えてみます。第3世代セファロスポリンとペニシリンや第1,2世代セファロスポリンとの違いは,端的に言えばグラム陰性桿菌へのスペクトラムが広がっているということです。グラム陽性球菌の関与する感染症であればペニシリンや第1世代セファロスポリンがより有用です。外来で治療する感染症でグラム陰性桿菌によるものがあるとすれば,膀胱炎や腎盂腎炎などの尿路感染症でしょう。膀胱炎や腎盂腎炎で想定しなければならないグラム陰性桿菌と言えば大腸菌になります。
それでは大腸菌による腎盂腎炎を想定した場合,経口第3世代セファロスポリン系抗菌薬は必要かつ十分でしょうか。
まずは大腸菌の感受性の問題です。確かに大腸菌の抗菌薬耐性化が進んでおり,エンピリックに大腸菌を広くカバーするには,経口ペニシリンやST合剤では難しく,また近年ではキノロン系抗菌薬にも十分なカバーが期待できないこともあります。しかし,多くの場合,第3世代セファロスポリンでなくとも第2世代セファロスポリンでカバーすることが可能です。したがって,感受性の点では第3世代セファロスポリンを使用する必要はありません。
次に,わが国でよく使用されている経口第3世代セファロスポリンの吸収率をみてみましょう。A薬は16%,B薬は25%,C薬は46%となっています。もしC薬を添付文書通り200mg内服すると,実際に吸収されるのは100mgに満たなくなります。一方で静注用第3世代セファロスポリンの代表的な薬剤であるセフトリアキソンは,1回1~2g使用します。まったく同一の薬剤ではないため直接の比較はできないにせよ,用量の違いを考慮すると,経口第3世代セファロスポリンに治療効果を期待するのは難しいと予想されます。
特に腎盂腎炎の場合には重症化することも多く,確実な治療が必要です。このような状況ではそもそも経口薬による外来治療ではなく,入院の上,第2世代セファロスポリンなどによる経静脈的な治療を行うほうがよいでしょう。もしどうしても外来で行う場合は,1日1回セフトリアキソン1~2gの点滴を行いながら起因微生物の同定と感受性結果を待つ方法が安全かと思います。
以上をまとめると,経口第3世代セファロスポリン系抗菌薬は外来での感染症診療に必要でも十分でもないことがわかります。
なお,米国の事情を知るために米国感染症学会による女性の単純性腎盂腎炎のガイドラインにあたると,大腸菌のキノロン耐性10%以下の地域では経口キノロン系抗菌薬を,キノロン耐性10%以上の地域ではセフトリアキソンの経静脈投与を推奨し,経口βラクタム薬は推奨されていません。

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