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インフルエンザワクチン1回接種量増加により抗体価は改善した?

 【1歳未満での比較データはないが改善傾向あり】

No.4782 (2015年12月19日発行) P.64

中山哲夫 (北里大学北里生命科学研究所 ウイルス感染制御学研究室Ⅰ教授)

登録日: 2015-12-19

最終更新日: 2016-10-18

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【Q】

過去,インフルエンザワクチンの接種量は1歳未満では0.1mLでしたが,最近では0.25
mLに増量されています。増量によって抗体の獲得率は改善したのでしょうか。 (高知県 F)

【A】

わが国では,1951年にインフルエンザワクチンが製造承認され,1957年にアジア風邪が流行したときからワクチン製造が本格化しました。インフルエンザの流行を増幅するのは学童と考えられ,1962年から学童の集団接種が始まりました。
開発当初は全粒子不活化ワクチンが使用されていました。当時のワクチンは発熱率が高く,小児への接種量は成人に対する体表面積の比率から1歳未満では0.1mL,1~5歳で0.2mL,6~12歳で0.3mL,13歳以上で0.5mLと設定され,13歳未満は2回接種と設定されました。発熱因子を除去した現行のスプリットワクチンは1972年から供給されるようになりました。これにより発熱の出現頻度は低下しましたが,接種量,回数の見直しは行われませんでした。
わが国のインフルエンザワクチンは,小児での有効性が低いのではと懸念され,その原因はワクチンの基本的な性状,接種量によるものではと推定されました。外国では6カ月~2歳は0.25mL,3歳以上は0.5mLで9歳以上では1回接種となっています(文献1)。国産ワクチンと外国製のワクチンを用いて2007/08年シーズンに6カ月~2歳は0.25
mL,3歳以上は0.5mLの有効性と安全性の臨床試験が実施されました。国産ワクチンでA(H3N2)に対するHI抗体価が低値を示したこと以外は外国製のワクチンと同等で,接種後にも重篤な副反応は認めませんでした(文献2)。3歳未満0.25mL,3歳以上0.5mLの有効性と安全性が確認されたことから,わが国でも2011/12年シーズンから同様に変更されました。
しかしながら,1歳未満で0.1mL,1~5歳で0.2mL,6~12歳で0.3mLとの比較試験のデータはないようです。6カ月~1歳未満で0.25mL接種後のHI抗体レスポンスは少数ですが,A H1N1に対しては7/17(41.2%),H3N2に対しては10/17(58.8%),B Victoriaに対しては4/17(23.5%)と1~2歳群と比較すると明らかに低いものの,以前の0.1mL接種の結果の20%前後よりは明らかに改善されているようです(文献3)。現行のスプリットワクチンは自然免疫系に刺激が入らないために,B細胞メモリー,CD4T細胞メモリーを刺激するワクチンでprimingされていないnaiveな個体には免疫原性が低いことが知られています(文献4)。
接種量が増量になった2011/12年以降のワクチン効果が報告されています。ワクチン接種児と非接種児で迅速診断キットを使用して2011/12年シーズンでは,6歳未満でA型に対するワクチン効果は6歳以上より高く,1~2歳で55%,3~5歳で32%と報告され,B型に関しても同様の傾向を認めています。2012/13年シーズンでは1~2歳で19%,3~5歳で20%であったと報告されており,6歳未満の接種量が増えたことが有効性に反映されたのではないかと考えられています(文献5)。
乳幼児に対するインフルエンザワクチン接種量0.1mLから0.25mLへの増量に伴う抗体応答の比較試験の論文はみられませんが,抗体応答は1~2歳群と比較すると低いようです。

【文献】


1) WHO:Wkly Epidemiol Rec. 2005;80;279-87.
2) 高橋裕明,他:感染症誌. 2013;87(2):195-206.
3) 阪大微生物病研究会, MSD株式会社:インフルエンザHAワクチン(ビケンHAR)添付文書.
4) 中山哲夫:臨とウイルス. 2014;42(4):198-204.
5) Suzuki T, et al:Tohoku J Exp Med. 2014;232(2):97-104.

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