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調剤ミスと保険診療・第三者行為

No.4738 (2015年02月14日発行) P.68

桑原博道 (弁護士)

登録日: 2015-02-14

最終更新日: 2016-12-12

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【Q】

たとえば,調剤ミスによる降圧薬の過剰投与で著しい低血圧となり,その治療のために輸液をしたり薬剤を投与した場合や,血糖降下薬の過剰投与で低血糖となり,ブドウ糖を投与するなどした場合など,調剤ミスを原因とした症状への治療は保険診療として認められるのか。
それとも保険診療としては認められず,第三者行為による被害事件として取り扱われ,医療費の全額を保険者に返還することになるのか。 (長崎県 N)

【A】

まず,調剤ミス後の低血圧や低血糖に対する治療そのものは,適応内の薬剤が選択されて治療が行われているものと考えられるので,保険医療として認められないわけではない。
次に,第三者行為に該当するかどうかについて述べる。ここでの第三者とは,保険者と被保険者(患者など)以外の者を指すので,医療機関についても,第三者に該当することになる。したがって,調剤ミス後の低血圧や低血糖に対する治療は,第三者行為によって必要となった治療ということになる。
第三者行為に該当するとすればさらに問題になるのは,この対応として,医療費を保険者に返還するというものに限定されるかどうか,である。この点の第三者行為については,健康保険法において,保険者は,給付の価額の範囲内で,患者が第三者に対して持っている損害賠償請求権を取得するとされている(第57条第1項)。
これが本問の場合にどのように適用されるかを考えるには,まず,[1]一般的な第三者行為の場合,たとえば,交通事故などの場合には,患者・医療機関・保険者・加害者の関係がどのようになるかを整理し,その上で,[2]本問の場合には,何が一般的な場合とは異なるのかを検討し,これにより,医療機関と保険者の関係について,どのような結論に至るかを考察する必要がある。
そこで,まず,[1]交通事故のような一般的な第三者行為の場合の関係を整理すると,(1)患者が医療機関に治療を請求し,(2)医療機関が保険者に治療費を請求し,(3)保険者が加害者に治療費を請求することになる(図1)。
これを前提に[2]本問の場合と一般的な場合とで異なる点を検討すると,相違点は,医療機関と加害者が同一という点である。そのため,本問の場合には,(1)患者が医療機関に治療を請求し,(2)医療機関が保険者に治療費を請求し,(3)保険者が医療機関に対して,対加害者として治療費を請求することになる(図2)。
したがって,医療機関としては,治療費を請求し,その後に,保険者から請求があった場合には,治療費を返還することになる。このようなことから,保険者に治療費を返還する可能性があるならば,最初から保険者に治療費を請求しないという対応もありうる。
いずれの対応をとるかは,患者の意向や過誤の明白性の有無などにもよるが,質問のような明白な過誤の場合には,後者の対応も検討に値するであろう。

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