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死亡診断書の診断名

No.4710 (2014年08月02日発行) P.70

竹中郁夫 (弁護士)

登録日: 2014-08-02

最終更新日: 2016-10-18

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【Q】

死亡診断書(死体検案書)の診断名に「内因性心臓死」と記されているものを見ることがある。おそらく「心臓突然死」の意味で,死因不明の場合を示唆するのであろうと思われる。だが,このような診断名は公文書上許容されるものか。もし否の場合,本来はどのように記載すべきか。(熊本県 T)

【A】

医師法第19条2項が「診察若しくは検案をし,又は出産に立ち会つた医師は,診断書若しくは検案書又は出生証明書若しくは死産証書の交付の求があつた場合には,正当の事由がなければ,これを拒んではならない」と定め,同法第20条が「医師は,自ら診察しないで治療をし,若しくは診断書若しくは処方せんを交付し,自ら出産に立ち会わないで出生証明書若しくは死産証書を交付し,又は自ら検案をしないで検案書を交付してはならない(後略)」と定めている通り,法は死亡診断書の交付を医師の業務の一部として,その交付義務や無診察交付禁止の原則を定めている。
厚生労働省は毎年「死亡診断書(死体検案書)記入マニュアル」を発表しているが(平成26年度版は,http://www.mhlw.go.jp/toukei/manual/dl/manual_h26.pdf 参照),このマニュアルにおいては「厚生労働省大臣官房統計情報部では,『死亡の原因』欄の記載内容を基に世界保健機関(WHO)が示した原死因選択ルールにしたがって『原死因』を確定し,死因統計を作成しています」として,「WHOでは『原死因』とは,『直接に死亡を引き起こした一連の事象の起因となった疾病もしくは損傷』又は『致命傷を負わせた事故もしくは暴力の状況』と定義しています」とした上で,「傷病名は,医学界で通常用いられているものを記入し,略語やあまり使用されていない医学用語は避けるようにします」と書かれている。
このように死亡診断書も,生前の診断や治療と同じく,当時の医療水準を満たした形で医学界において通常使用される常識的記載が望まれるとされているものの,どのようなレベルのものが無効とは示されていない。
したがって,「内因性心臓死」の表記も,質問者のような同時代の医師が,「心臓突然死」で,死因不明の場合を示唆するのであろうと解釈できるレベルのものならば,まず無効の議論となるレベルのものではないと考えてよいであろう。
表記に関する事実関係が不明なので,どのように書けばよいかについては簡単に言うことはできないが,本来不詳の場合は「不詳」と記載すべきことになっているので,そのような場合には,直截に「不詳」と記載するのが適切であろう。もちろん,安易に「不詳」としておけばよいという意味ではなく,死因究明という公的任務を課せられた医師として,「不明」ならば「不明」,推測される経緯があれば,注釈をつける必要があるという意味である。

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