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ICUにおけるせん妄のスクリーニングと予防および治療【ICUにおけるせん妄評価法(CAM-ICU)で4つの所見のうち3つ以上がそろえばせん妄と診断】

No.4791 (2016年02月20日発行) P.59

鶴田良介 (山口大学大学院医学系研究科 救急・総合診療医学分野教授)

登録日: 2016-02-20

最終更新日: 2016-11-10

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【Q】

集中治療室(intensive care unit:ICU)におけるせん妄がICU在室日数・入院日数の延長,死亡率,退院後の認知機能障害の独立予測因子であると報告されるなど,近年,ICUせん妄の病態と患者の予後の関連性が注目されています。ICUにおけるせん妄のスクリーニングと予防および治療について,山口大学・鶴田良介先生のご教示をお願いします。
【質問者】
井上茂亮:東海大学医学部付属八王子病院救急センター 准教授

【A】

「患者がベッドから起き上がろうとしている」「患者が胃管を抜去した」などの行為を「せん妄」と呼んでいませんか。これらはせん妄と呼ばずに「不穏」と言って下さい。せん妄とは,短期間のうちに出現し,変動する認知機能障害のことです。せん妄は,(1)易刺激性,興奮・錯乱や不穏,幻覚などの症状を示す過活動型(hyperactive),(2)注意の低下,不活発,不適切な会話などの症状を示す低活動型(hypoactive),(3)両者の特徴を示す混合型(mixed),の3つに分類されます。せん妄評価ツールを使用すると,意外にも過活動型の頻度は最も低いことがわかります。患者の鎮静深度を評価するスケールと組み合わせて,ICUの医師・看護師でも容易に判定可能なせん妄評価ツールが開発され,その有用性や妥当性が示されてきました。ICUにおけるせん妄評価法(Confusion Assessment Method for the ICU:CAM-ICU)はその代表で,精神状態変化の急性発症または変動性の経過(所見1),注意力欠如(所見2),意識レベルの変化(所見3),無秩序な思考(所見4)をもって行い,4つの所見のうち3つ以上がそろえば,せん妄と診断されます(図1)。評価にかかる時間は3分ほどです。
現在までのところ,残念ながらせん妄の発症を予防したり,発症したせん妄を治療する有効な方法はありません。ただし,ICU患者の早期離床を促すことや睡眠の質を向上させるための多角的な介入の結果,一部の施設ではせん妄の持続日数が短縮したとの報告はあります。最近,スタチンの投与でせん妄フリー日数が増加したという報告がありました。治療に関しては,過活動型せん妄に対しハロペリドール,非定型抗精神病薬(リスペリドン,クエチアピン)が適応外使用されてきましたが,十分なエビデンスは今のところありません。 せん妄の危険因子の重症度,感染(敗血症)の改善を図ることがせん妄の予防と治療において最も重要と言わざるをえません。CAM-ICUを使ったせん妄のスクリーニングを普及させ,せん妄の有効な予防・治療法の開発を展開させていくことが今後の課題です。

【参考】

▼ 日本集中治療医学会J-PADガイドライン作成委員会:日集中医誌. 2014;21(5):539-79.
▼ ICUにおけるせん妄評価法(CAM-ICU)トレーニング・マニュアル(改訂版:2010年10月).
[http://www.icudelirium.org/docs/CAM_ICU_training_Japanese-2014.pdf]

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