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糖尿病性腎症に対する蛋白制限食の効果とエビデンス

No.4755 (2015年06月13日発行) P.56

長田 潤 (済生会横浜市南部病院糖尿病・内分泌内科医長)

登録日: 2015-06-13

最終更新日: 2016-10-18

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【Q】

糖尿病性腎症に対して,蛋白制限食が推奨されていますが,実施には多くの困難が伴います。
臨床での蛋白制限食実施のポイントとその効果に関するエビデンスについて,済生会横浜市南部病院・長田 潤先生のご教示をお願いします。
【質問者】
近藤義宣:茅ヶ崎市立病院代謝内分泌内科医長

【A】

わが国のガイドラインにおいては,糖尿病性腎症を含む腎不全患者では蛋白制限食の指導が推奨されています。この根拠としては,蛋白制限食が巣状糸球体硬化症モデル動物の硬化病変を改善したという動物レベルの知見や,また古典的には腎不全患者での過剰な蛋白負荷が尿毒症症状を起こすという懸念に基づくものと理解しています。
しかし,実際の導入においては患者だけでなく栄養士,看護師,医師にとっても大変な努力が要求されます。また,蛋白制限によるエネルギー不足を補うために,糖・脂質のエネルギー比率を高く設定するため,それまでエネルギーコントロール食で指導されていた患者の混乱をまねいたり,血糖や脂質のコントロールが悪化したりするという負の側面もあります。
これらのことをふまえた上で,蛋白制限食を実施するべきかどうかという疑問に対しては,臨床的なエビデンスが不足しているのが現状と思われます。
これまでには複数の無作為化比較試験(randomized controlled trial:RCT)が行われてきましたが,その結果は必ずしも一定していません。蛋白制限食を指導した後の遵守度が低い試験も多くあったことが1つの理由かもしれませんが,一方でこれは,厳格に管理されたRCTにおいてさえ継続が困難な食事療法の難しさを物語っていると言えます。
このような複数のRCTを統合したメタ解析は,私たちの知る限り過去に2報あります。しかし,クロスオーバー研究を含んでいたり,前述のように食事療法の遵守度の試験間差異を考慮していなかったりなど,デザインに厳密さを欠く部分がありました。
そこで,これらの点を考慮して私が2013年に行ったRCTメタ解析(文献1) では,蛋白制限食によってわずかに糸球体濾過値(glomerular filtration rate:GFR)の低下が抑制され,食事療法の遵守が良好な試験でより顕著でした。しかし,GFRの改善効果と言っても5~8mL/分/1.73m2 であり,腎症ステージをリバースできるほどではないでしょう。また,より重要な透析導入・死亡率といったアウトカムを改善できるかについては,いまだ答えが出ていません。
これまでの経緯をふまえて,2014年の米国糖尿病学会ガイドライン(Executive Summary:Standards of Medical Care in Diabetes─2014)(文献2) では,2期以上の腎症患者に対する蛋白制限食を「推奨しない」と変更しています。
私たちの施設では,糖尿病性腎症3期後半,4期の症例には蛋白制限食の指導をしていますが,遵守の難しい場合(理解度,認知度,キーパーソンの有無)や糖脂質などの動脈硬化に関する他リスク因子の増悪などを認めた場合は中止をするなど,できるだけ柔軟に対応するように心がけています。

【文献】


1) Nezu U, et al:BMJ Open. 2013;3(5). pii:e002934.
2) American Diabetes Association:Diabetes Care. 2014;37 Suppl 1:S5-13.

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