中村利仁 (社会医療法人慈恵会聖ヶ丘病院内科)
登録日: 2025-08-28
最終更新日: 2025-08-19
関東のとあるテーマパークに、様々な国の民族衣装に身を包んで歌い踊る子どもや動物の人形の並ぶ中を、船に乗ってゆっくりと水路を進んでいくというアトラクションがあります。オープン以来、多くのアトラクションが廃止あるいは入れ替えになってきましたが、このアトラクションはオープン当初から現在に至るまで健在であり続けています。いろいろな意味で、子どものためのアトラクションだからなのかも知れません。
2025年7月の参議院議員選挙前から、高額療養費制度の事実上の廃止が議論されています。とはいえ、付加給付のある公務員共済組合や健康保険組合などは、事実上その対象外であり、国民健康保険組合や協会けんぽが主な対象になります。したがって、これら被保険者にとって致命的な負担増はともかく、保険者側から見た金額や財政に与える影響は、必ずしも大きいとは言えません。
廃止が予定された高額療養費制度ですが、付加給付以外にも対象外とされているケースがいくつかあります。そのひとつが、区市町村などが事業主体となっている「小児医療費助成制度」です。
小児医療費助成制度については、「無償化」ばかりが話題になり、コンビニ受診の抑制を目的に廃止を主張する医療従事者は少なくありません。しかし、小児医療費助成制度の根幹は、歴史的に見ても、また患者の自己負担額の観点から見ても、「無償化」ではなく「高額療養費制度」にあります。
総務省は以前から、自治体病院、特に地方公営企業病院の経営について、経営指導を行っています。加えて、厚生労働省は地域医療構想の実現を掲げ、2020年に全国424の公的病院について、再編・統合をせまっていく旨を公表しました。市町村の事業だからといって、国がそれを放置しているわけではありません。国がその気になれば、強権的に区市町村に対して小児医療費助成制度の廃止をせまることも可能な仕組みになっているのです。
小児医療費助成制度は実質的に、その費用を負担している親世代に支給されます。この親世代とは、氷河期世代以降の、急激に減少している若年世代であり、20年以上にわたる長期的な失業や、官民を問わない人件費削減の影響で、格段と貧しくなった世代でもあります。小児医療費助成制度の廃止は、まさにこの世代を直撃することになります。
「……そんなものも守れないなら、いっそこのまま滅んでしまうがいいんだよ」エルンスト・ツィマーマン(安里アサト『86─エイティシックス─』)
中村利仁(社会医療法人慈恵会聖ヶ丘病院内科)[小児医療費助成制度]