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【識者の眼】「子どもの自殺」小橋孝介

No.5216 (2024年04月13日発行) P.57

小橋孝介 (鴨川市立国保病院病院長)

登録日: 2024-04-01

最終更新日: 2024-04-01

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3月は2022年に閣議決定された新たな「自殺総合対策大綱」において「自殺対策強化月間」と定められ、様々な啓発活動が行われた。警察庁・厚生労働省の自殺統計によると、23年度の児童生徒の自殺者数は507人(暫定値)で22年度の514人とほぼ横ばいで高い水準で推移している。

そして、22年の人口動態統計の5歳階級でみた年齢階級別の死因によると、10〜39歳までの第1位が「自殺」である。また、16年の中高生を対象とした全国調査では、4人に1人が死にたいと思ったことがあり、実際に20人に1人が自殺を試みたと回答している。子どもの自殺というのは非常に身近にあり、重要な社会課題の1つとなっている。

日常診療の中で直接「死にたい」と言葉で相談されることは少ないかもしれない。自殺に至る子ども達は援助希求能力が乏しく、言葉でSOSをうまく出せないことが多い。しかしながら、頭痛や腹痛などの身体症状や睡眠の問題など、子ども達は様々な形でSOSを出している。そのSOSに気づき、子どもにとって信頼できる大人としてしっかり寄り添うことが我々には求められている。

リストカットなどの自傷行為もSOSの重要なサインである。自傷行為の96%は1人の状況で行われ、そのことは誰にも告白されないことが報告されている。国内の報告でも、学校が把握している自傷行為と子どもに対するアンケート調査の結果では大きな乖離があることが示されており、この結果を裏付けている。

「死にたい」という子どものSOSを受け取った際の対応において求められるのは「TALKの原則」である1)。Tellは言葉に出して心配を伝えること(例:「死にたいくらいつらいのですね。あなたのことがとても心配です」)。Askは「死にたい」という気持ちについて、率直に尋ねること(例:「どんなときに死にたいと思いますか?」)。Listenは絶望的な気持ちを傾聴すること。このとき、子どもの行動の善し悪しを判断したり、命の大切さを説いたりすることは、子どもの孤独を助長するため、絶対にしてはならない。子どもの立場に立って、そうならざるをえなかった状況を理解しようとする姿勢が重要である。Keep safeは「安全を確保する」こと。危険と判断したら、1人にせずに寄り添い、適切な援助を求める。対応の中で「誰にも言わないで」と訴えられる場合がある。しかし「あなたを守るためには言う必要がある」ことを丁寧に伝え、1人で抱え込むことはしてはならない。

このTALKの原則は子どもに限らない。ぜひすべての医療者に知っておいて頂きたい。

【文献】

1)文部科学省:教師が知っておきたい子どもの自殺予防. 2009, p5-13.

小橋孝介(鴨川市立国保病院病院長)[自殺][自傷][子ども家庭福祉]

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