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2024年度診療報酬改定を検証する─「外的な事情」に振り回された改定率【まとめてみました】

No.5202 (2024年01月06日発行) P.14

登録日: 2023-12-27

最終更新日: 2023-12-27

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2024年度の診療報酬改定は本体を0.88%引き上げることに決まった。薬価等改定が1.0%の引き下げで合計(ネット)では0.12%の引き下げ。これまでの改定論議を振り返りながら、その意味を検証する。

過去30年間の改定率の推移を見たのが図1。2000年を境に改定のトレンドは明らかに変化した。小泉政権下のマイナス改定(02年度、06年度)、医療崩壊の反省から民主党政権時の1%超のプラス改定(10年度、12年度)を経て、自公政権に戻った14年度以降、本体の引き上げ率は1%未満。薬価引き下げ分が本体に全額振り替えることもなくなり、ネットではマイナス改定が繰り返されてきた。

この経緯を見ると、日本医師会が求めた「異次元の改定」が実現したとは言えない。前回の+0.43%から倍増したとはいえ、これまでのトレンドを引きずった中途半端な改定とみることができる。

ちぐはぐだった岸田政権の財源対策

周知のように、今回の改定は大幅な引き上げを求める日本医師会と厚生労働省に対し、財務省はマイナス改定で応じようとした。

その理屈づけの一つとなったのが少子化対策の財源問題だ。総額3.6兆円程度とされる「加速化プラン」の財源について、こども未来戦略では「実質的に追加負担を生じさせないことを目指す」と決定。このため11月の財政審建議でも、「医療・介護分野等の徹底した歳出改革」などを通じてその財源を「安定的に確保することが不可欠」と強調している。

もう一つは保険料負担の抑制だ。「現役世代の保険料負担等の軽減による手取り所得を確保することが、物価高に対応する変革期間における経済政策とも整合的である」とマイナス改定を正当化した。

「診療報酬の引き上げは岸田政権の目指す賃上げによる景気回復につながる」と訴える日本医師会と、「少子化対策、景気回復のため診療報酬の引き下げを」と主張する財務省。結局、12月15日の官邸での岸田首相、武見厚労相、鈴木財務相の協議で本体+0.88%とすることが決まったが、これは岸田首相の「医療従事者の賃上げは必要」との鶴の一声だったとされている。

このため、12月20日に武見・鈴木両大臣により行われた事前折衝で、改定率のうち賃上げに使われる分については、こども未来戦略の「追加的な社会保険負担額」に含めないと整理された。鳴り物入で登場した少子化対策も、負担論議を先延ばしにした結果、政策のちぐはぐさが際立つ結果となった。

加えて、予算編成最終盤の12月14日、自民党派閥の裏金問題で官房長官が交代したことも、改定率に影響を及ぼした可能性がある。金銭スキャンダルに揺れる内閣では、国民に負担増を求める政策はとれない。12月20日の三師会の会見で、松本吉郎日医会長がネットで0.12%のマイナス改定になったことについて、「これで国民の医療費負担は減少する」と強調したのもその点を踏まえたものだろう。

長く続いたデフレ局面から、インフレ基調に変わりつつある中での診療報酬改定であったにもかかわらず、中途半端な改定率となったのは、これらの外的な事情に振り回された結果とみることができる。

0.25%の効率化・適正化で相当の見直しも

12月20日の大臣折衝で決まった内容は別掲の通り。医科、歯科、調剤の配分比率は今回も1対1.1対0.3が維持された。

本体+0.88%の内訳をグラフ化したのが図2。注目されるのは※2の0.61%が看護職員等のベースアップに充てられる点だ。23年度春闘は、ベースアップ分に限ると2.1%程度ともいわれており、引き上げ率だけでみると同程度の賃上げが期待できるかもしれない。※1のうちの0.28%も、医師の働き方改革に伴う夜勤手当の拡充などに充てられることが望まれる。

※4の効率化・適正化分-0.25%は単純計算すれば1200億円相当になり、生活習慣病管理料や処方箋料の相当が見直しが必要になるとみられる。

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