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救急医療のヘルスサービスリサーチ【臨床医に伝えたいヘルスサービスリサーチ(10)】

No.5191 (2023年10月21日発行) P.43

井口竜太 (筑波大学医学医療系ヘルスサービスリサーチ分野准教授)

登録日: 2023-10-24

最終更新日: 2023-10-23

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  • 1. はじめに

    救急医にとってヘルスサービスリサーチ(health services research:HSR)という言葉はなじみがない方が多いと思われるが,毎朝のカンファレンスにおける話し合いがHSRの始まりである。カンファレンスでは,救急外来または救急車で来院した患者に対して,質の高い救急医療を提供できたか,また病院到着前の救急隊の処置や,さらにさかのぼってかかりつけの医療機関が質の高い医療サービスを患者に提供していたか,といったことを検討している。

    駆け出しの救急医であれば,患者に対して質の高い救急医療を提供できたかが重要であるため,個人の知識や技術習得に重点が置かれる。上級医になると,自施設の救急科診療体制のみならず,病院到着前の救急隊や地域医療機関との体制を改善することにより,地域全体の救急医療サービス提供の質の向上を考えるようになる。

    この,既に効果が証明された治療法や救急医療サービスが,病院内のみならず,病院前医療において患者に届いているかを検証するのが救急医療におけるHSRであり,新しい治療法や医療技術を研究・開発するという伝統的な医学研究とは異なる。

    2. HSRを理解するための具体的な論文例

    本連載第1回(No.5152)では,HSRを理解するために,3つのモデルである,①Donabedianによる3概念,②Andersenによるサービス利用の行動モデル,③サービスの3要素(ニーズ・デマンド・サプライ)と8フィールド,があることを示した。今回は,それぞれのモデルについて具体的な論文を提示することで,救急医療におけるHSRの理解を深めていく。

    1 Donabedianによる3概念

    Donabedianによる3概念は,医療の質の評価を,ストラクチャー,プロセス,アウトカムの3つの概念にわけて検証するものである(表1)1)2)

     

    ①ストラクチャー(構造)は,救急医療サービスを提供するために必要な設備や人員配置などの体制,②プロセス(過程)は,提供される救急医療の一連の流れ,アクセス,内容,③アウトカム(結果)は,救急医療によりもたらされた患者の状態変化(予後,臨床状態,ADL,QOL等)である。

    具体的には,ストラクチャーに関しては,専門医数による治療成績の違い,夜間と昼間の治療成績の違いといった施設属性に関する論文3)4),プロセスに関しては,心肺停止患者に対する救急隊の気管挿管やアドレナリン投与と予後の関連を示した論文5),そしてアウトカムに関しては,パンデミック下において呼吸状態が悪い重症患者を各施設で診るのではなく,ECMO(extracorporeal membrane oxygenation,体外式膜型人工肺)センターに集約化するほうが患者の予後が良い6)といったものがあり,病院組織,救急隊,地域の施設や医療機関を対象に救急医療体制や救急サービスの質を評価している。

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