株式会社日本医事新報社 株式会社日本医事新報社

CLOSE

【識者の眼】「豊かな人間関係の中で子どもが育つ環境づくり」中村安秀

No.5171 (2023年06月03日発行) P.57

中村安秀 (公益社団法人日本WHO協会理事長)

登録日: 2023-05-24

最終更新日: 2023-05-24

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

「子ども家庭庁」の発足に従い、いま、子育て家庭に対する経済的支援のあり方が大きな政治課題になっている。若年層も含めて、結婚や出産に関わる世代に対する経済的な支援は必要であるが、それだけでは十分ではない。いまの日本にとって最も欠けているものの1つが、豊かな人間関係の中で子どもが育つことのできる社会のあり方である。

30年前に、インドネシアのスマトラ島において家族とともに暮らしたときのことを想い出す。インドネシアでも基本は核家族。しかし、家族や親戚だけに限らず、お互いに助け合って子育てする形は近所の人や友人にまで広がっていた。子どもは成長するにつれ、自我の確立にいたる過程で、一度は親の生きざまや考え方を全面的に否定することはよくみられる。そのとき、身近に相談できる大人がいるかどうかが大きなポイントとなる。インドネシアでは、親戚の叔母さんや近所の小父さんが相談相手になっていた。幼いときから一緒に遊んでもらい、ご飯を食べさせてもらったという関係性の中で、自分の親とは異なるつき合いが可能である。子どもが暮らしの場の中で孤立しないのである。

日本も実は、子育ての先進国だった。明治初期のお雇い外国人で大森貝塚を発見したエドワード・S・モースは、どんな場所にも親に背負われたり兄姉に連れられたりして子どもたちがおり、世界中に日本ほど赤ん坊のために尽くす国はないと激賞した。

子どもは家庭の中だけで育つのではない。また、親だけが子どものケアをしているのではない。当たり前のことだが、子どもが健全に育つには、周りにいろんな大人がいて、多様性に富んだ子どもたちと触れあう地域社会が必要なのだ。時計の針を過去に戻すことはできないが、日本の歴史的な過去や、アジアの国々から学ぶことはできる。

異年齢の子どもたちが交流できる場、様々な大人たちと意見を交わすことができる場、そして、高齢者と子どもたちが相互に交流できる機会を地域の中で意識的に醸成していく必要があろう。いま、日本の小さな自治体レベルで、豊かな人間関係の中で子どもが育つ地域社会を再構築する試みが様々に行われている。上からの画一的な押しつけによる子育て支援ではなく、地域でのすばらしい実践が燎原の火のように各地に広がり、だれひとり取り残されることなく、子どもたちが豊かな人間関係の中で成長できることを願いたい。

中村安秀(公益社団法人日本WHO協会理事長)[少子化][子ども][SDGs]

ご意見・ご感想はこちらより

関連記事・論文

もっと見る

関連書籍

もっと見る

関連求人情報

関連物件情報

もっと見る

page top