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【識者の眼】「HPVワクチンとISRR─小児科医の果たすべき役割とは」坂本昌彦

No.5162 (2023年04月01日発行) P.61

坂本昌彦 (佐久総合病院・佐久医療センター小児科医長)

登録日: 2023-03-17

最終更新日: 2023-03-22

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この4月から9価HPVワクチンが定期接種の対象となりました。2022年4月に接種勧奨再開とキャッチアップ接種(2025年まで)が始まったのに続く大きな一歩です。筆者は産婦人科医ではなく小児科医ですが、HPVワクチン啓発には小児科医の役割こそ重要だと考えています。その理由の1つは、このワクチンの定期接種対象年齢(小6〜高1)が主に小児科の範疇であること、そして小児科医はワクチン接種業務に慣れていることが挙げられます。しかし最大の理由は、以前の報道の影響などもあってこのワクチンの安全性への不安について質問されることが多く、情報提供の際には接種者本人や保護者の不安に寄り添うことが何より大切であることから、既に彼らとの間に長年の信頼関係が構築されている、かかりつけ小児科医の果たす役割こそが大きいと考えているためです。

最近では、事前に十分な説明がなされず不安が残った状態で接種を受ける等がきっかけで、接種後に痛みや様々な症状が生じる可能性があることがわかってきました。WHOは2020年にこの反応を接種後ストレス関連反応(immunization stress related response:ISRR)と定義しました。ISRRの機序としては3つの要因が絡み合って起こるとされています。それは、年齢や遺伝などの生物学的要因、接種前や接種時に感じる恐怖などの心理学的要因、接種前後の医療者を含む周囲の人の言動といった社会的要因です。その予防として、①痛みの軽減のためのアプローチ(5pアプローチ)、②寄り添うコミュニケーション─が有効とされています。①には穿刺の際に吸引しないといった手技的な内容や、迷走神経反射の既往がある場合は臥床して接種するといった身体的なアプローチ、本人や保護者への事前の十分な説明が含まれます。それらの説明と対応を丁寧に行い、不安に対して十分な共感をもって傾聴することがISRRの予防のためにも大切です。

厚生労働省のHPV接種勧奨の再開以来、少しずつ接種率は上がっていますが、まだまだ十分とは言えません。産婦人科医、小児科医だけでなく、多くの医療関係者が連携し、子宮頸がんをはじめとするHPV感染症の撲滅につなげられるよう願っています。

坂本昌彦(佐久総合病院・佐久医療センター小児科医長)[HPVワクチン定期接種化][接種後ストレス関連反応

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