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忘れられない急性腹症(岡本宏史)[プラタナス]

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  • 宮城県気仙沼市で外科研修中、定期手術で50代男性の鼠径ヘルニアを執刀、術後数日して頸部~両肩、前胸部辺りの痛みの訴えが出はじめ、そのうち激しい腹痛が。腹部手術の既往はなし。「この激烈な痛がり方は緊急手術かもな……」と思いながら、絞扼性腸閉塞か、上腸間膜動脈(SMA)血栓症かと鑑別を思い浮かべつつ造影CTを撮るが、画像的に(当時はまだシャウカステン)そのような所見はなし。小腸が一部むくんでいるようだが、血流は問題ない。経過をみたところ鎮痛薬で腹痛は一旦落ち着いたが、再び激痛。その他にも腎機能が悪化傾向となり、上部内視鏡検査では食道潰瘍の所見。何が起こっているかわからないでいたところ、両側の下腿に紫色の斑点が。

    優秀な研修医ならすぐにわかるのでしょうが、当時の上級医の「腹痛と両下肢紫斑っていうのあったよねえ」という言葉で調べたところ、「ヘノッホ・シェーンライン紫斑病」、皮膚科での生検でも矛盾なしと。現在はIgA血管炎で統一されているようで、改めて調べると小児に多いとのこと。

    ステロイドパルスを行い症状は改善、そして今後のことを検討。というのは、気仙沼は日本有数の港町であり、気仙沼港には日本全国からの漁船が入ってきます。実は、この患者さんは高知県の漁師さんだったのです。病院を調べて治療の継続を高知大学医学部附属病院腎臓・膠原病内科に直接電話で相談し、速やかに受診の調整をして頂きました。退院後、しばらくして届いたのが患者さんの妻からのお手紙でした(写真)。行ったことのない高知にしばし思いを馳せたのを覚えています。

    今後、同様の症例が来た時は絶対に見逃さないと1つ自信をつけたものの、幸か不幸か、それ以来このような症例には出会っていません。そして、まだ四国に足を踏み入れていないのですが、学会も現地開催が増えてきたところ、四国へ行く機会を楽しみにして筆を置きたいと思います。

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