No.4758 (2015年07月04日発行) P.76
仲野 徹 (大阪大学病理学教授)
登録日: 2016-09-08
最終更新日: 2017-02-15
その日、誰もいない、何もない研究室でぼんやりと座っていた。教授に決まった時はほんとにうれしかったけれど、いざ着任すると、人、金、テーマ、先行きの不安ばかりだった。知り合いが贈ってくださった立派な花束だけが妙に明るかった。
大先輩の教授から「心配しなくてもすぐですよ」と言われたけれど、定年までの25年は永遠のように感じられた。その日からちょうど20年が経つ。振り返ってみると、ほんとうにあっという間だった。
必要最低限の機器を買っただけで2〜3千万円もかかり、資金がほぼ尽きた。愕然とした。ゴミを捨てに行く台車、小さめの2万円のにするか、大きめの3万円のにするかで、真剣に半日悩んだりした。
最初の3〜4年はしんどかった。日本でも有数の研究室である京大の本庶佑先生のところからの異動だったので、独立前の地位の方が高かったような気さえした。
幸運にも、トップダウンの研究資金をくださるという、ありがたい話があった。年間2〜3千万円であるから、若手教授にしては大きな研究費である。ものすごくうれしかった。が、使い切れる自信がないのでお断りしようと思った。人間がものすごくちっこかった。
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