株式会社日本医事新報社 株式会社日本医事新報社

CLOSE

実地医家に求められる犯罪被害者への支援[先生、ご存知ですか(56)]

No.5140 (2022年10月29日発行) P.61

一杉正仁 (滋賀医科大学社会医学講座教授)

登録日: 2022-10-30

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

犯罪被害者等への支援

日常の中で、突然の事故や犯罪に巻き込まれて、その被害者となることがあります。わが国では犯罪被害者の権利利益保護が図られる社会を実現するため、2004年12月に犯罪被害者等基本法が制定されました。

そして、同法に基づいて策定された犯罪被害者等基本計画に沿って、様々な取り組みが進められています。当然のことながら、被害者支援においては医療関係者の関与が欠かせません。

医師は、身体的傷害や心理・精神的傷害を受けた被害者の診察や治療、性犯罪被害者への検査・治療・緊急避妊措置など、幅広く被害者と接する機会があります。特に性犯罪被害者に対しては、各都道府県でワンストップ支援センターが設立されています。

この支援センターでは被害直後の診察、すなわち、身体の損傷に対する診察と治療、妊娠や性感染症の検査、性感染症への治療、緊急避妊薬の処方、そして、その後の精神的ケアなどが行われます。特に、急性期の診察では、警察と連携して証拠の採取なども行われます。

医師に求められること

2021年3月には第4次犯罪被害者等基本計画が策定され、2021年4月1日から2026年3月31日までの活動計画が示されました。そして、性犯罪・性暴力被害者や児童虐待を受けた子どもをはじめ、被害が潜在化しやすい犯罪被害者等への支援を一層推進していくことが示されました。

さらに、5つの重点課題に対して具体的な取り組みが挙げられ、その1つである「精神的・身体的被害の回復・防止への取組」では、医師に求められる内容が具体的に記されています。これらを以下に抜粋します。


①「PTSD対策専門研修」の内容の充実等:医療従事者等を対象に、「PTSD(心的外傷後ストレス障害)対策専門研修」を実施する。性犯罪被害者を含む犯罪被害者等への適切な対応・治療を行うために必要な、専門的知識と治療に関する内容の充実を図る。

②犯罪被害者等に対する医療機関の医療機能に関する情報の提供:犯罪被害者等が利用しやすいよう、医療機関の医療機能に関する情報をウェブサイト上で提供するとともに、関係機関において当該情報を共有し、適時適切に犯罪被害者等に提供する。

③犯罪被害者等への適切な対応に資する医学教育の推進:医学部においてPTSD等の精神的被害に関する知識・診断技能及び犯罪被害者等への理解を深めるための教育を推進する。また、精神疾患への初期対応と治療の実情に関する医学部卒業生の理解促進を図る。

④救急医療における精神的ケアのための体制の確保:救急医療における犯罪被害者等の精神的ケアに対応するため、救急医療体制における精神科医との連携体制の確保を図る。


このように、実地医家に対しても犯罪被害者の特殊性を十分理解した上で診療や支援を行うことが求められています。また、行政では、犯罪被害者の診察等にご協力頂ける医療機関のリスト化などを進めています。

先生方におかれましては、犯罪被害者の診察等に是非ともご協力をお願いいたします。

関連記事・論文

もっと見る

関連書籍

関連求人情報

もっと見る

関連物件情報

もっと見る

page top