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特集:イマドキのアトピー性皮膚炎治療

No.5088 (2021年10月30日発行) P.18

堀向健太 (東京慈恵会医科大学葛飾医療センター小児科)

登録日: 2021-10-29

最終更新日: 2021-10-28

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1998年鳥取大学医学部卒業。鳥取大学医学部附属病院および関連病院での勤務を経て,2007年国立成育医療センター(現・国立成育医療研究センター)アレルギー科,2012年から現職。

1 アトピー性皮膚炎の治療ターゲット
アトピー性皮膚炎の重要な治療ターゲットを3点挙げると,①バリア機能の補強,②サイトカインの抑制,③かゆみの軽減,となる。

2 治療ターゲット1:皮膚バリア破壊を予防・治療する
保湿剤を定期的に塗布することは,皮膚のバリア機能の低下が病態の基礎にあるアトピー性皮膚炎の治療において,要となる。保湿剤の性質を把握し,塗布のアドヒアランスに配慮していくことが重要である。
(1)保湿剤の種類
保湿剤はその性質により,エモリエントとモイスチャライザーに分類できる。その違いは,皮膚の構造から考えると理解しやすい。
(2)基剤の性質を把握する
まず,主剤と基剤の性能を意識する。次に,油脂製剤だけでなく,油中水型クリーム,水中油型クリーム,ローション,スプレーなど,基剤の性質の違いを把握する。そうすると,季節や皮膚の状態に応じて,保湿剤の使いわけをしやすくなる。
(3)塗布回数・塗布量
1日2回の保湿剤塗布を勧めているガイドラインが多いのは,塗布回数が1日1回より1日2回のほうが,保湿効果は高いからである。そして回数だけでなく,具体的な塗布量を指導することも意識するとよい。ステロイド外用薬の塗布量の指導で使用される「指1節分の外用薬を,手のひら2枚分の面積に塗るのが,適切な量である」という1指先単位(FTU)は臨床で広く活用されている。しかし,適切な外用薬を適切な量で塗布するように指導したとしても,実際に塗布されている外用量ははるかに少ないことが多い。アドヒアランスを上げるためのいくつかのTipsを紹介する。

3 治療ターゲット2:サイトカインの抑制
皮膚バリアが破壊されると,Th2サイトカインや2型自然リンパ球(ILC2)が刺激され,保湿剤のみでは押しとどめられない,アトピー性皮膚炎の悪化のサイクルが進み始める。その悪化を予想する,保険適用のあるバイオマーカーとして,TARCやSCCA2がある。また,過剰なサイトカインの産生につながる皮膚の炎症を改善させるために,抗炎症薬を適切に使用する必要がある。抗炎症薬は,①外用薬と②全身投与薬に大きくわけられる。

4 治療ターゲット3:瘙痒を抑える
アトピー性皮膚炎には,刺激が軽くてもかゆくなってしまう現象(アロネーシス),そして強い刺激ではさらにかゆくなるという現象(ハイパーネーシス)があり,生活の質を大きく下げる。ステロイド外用薬を連用しなければおさまらない場合は,タクロリムス軟膏やデルゴシチニブ軟膏への変更・併用を考慮する。また,デュピルマブは,成人には保険適用となっており,結節性痒疹にも有効であることが報告されている(ただし結節性痒疹そのものへの保険適用はない)。また,瘙痒を特に惹起するサイトカインであるIL-31を抑制する生物学的製剤であるネモリズマブも,最近アトピー性皮膚炎を対象とした第3相臨床試験成績が報告されており,実用化がせまっている。

伝えたいこと…
アトピー性皮膚炎の病態解明と治療は大きく進歩し,重症患者への福音となっている。しかし,治療の基本は,スキンケアとステロイド外用薬の適切な使い方であることに,変わりはない。新規の薬剤,特に全身投与薬の多くは高価でもあり,毎日のスキンケアとステロイド外用薬の間欠塗布への橋渡しとしての役割が与えられていると考えるとよいだろう。

1 「アトピー性皮膚炎」とは

(1)はじめに

「アトピー性皮膚炎」は,1923年にCocaが提唱し,1933年にSulzbergerが初めて命名した,最もよくみられる皮膚炎症性疾患のひとつである1)

アトピー性皮膚炎は,その瘙痒のために生活の質を大きく損ない2),小児の成長を阻害し3),場合によっては心臓血管疾患のリスクも高める4)など,様々なリスク要因になる。そのため,アトピー性皮膚炎に対する積極的な治療は重要である。

しかし,ステロイド外用薬を連用するならば,局所的な副作用を考えなければならない。ステロイド外用薬を減量するためにも,スキンケアをどのように行うか,そして重症アトピー性皮膚炎に対しては新規の薬剤をどのように活用するかが鍵となる。そこでまずは,アトピー性皮膚炎の発症と増悪のメカニズムを考慮しながら,その治療を考えてみたい。

(2)アトピー性皮膚炎の治療ターゲット: ①バリア機能の補強,②サイトカインの抑制,③かゆみの軽減

アトピー性皮膚炎の発症モデルとして,「ダブルスイッチ数理モデル」を挙げる。

このモデルは,アトピー性皮膚炎の発症・増悪を2つのスイッチになぞらえて説明している。

まず,環境要因や皮膚が乾燥しやすい体質などから,皮膚バリア破壊が起こる。このバリア破壊は,当初は保湿剤などで改善させることができる。すなわち可逆性の病態である(スイッチ①)。しかし,そのスイッチ①が繰り返し入ったり持続したりすると,様々なサイトカインの産生が起こって感作が進み,不可逆性の炎症が惹起される(スイッチ②)。これら2つのスイッチがあるとしたモデルである(図1)5)

 

さらに,アトピー性皮膚炎の発症と増悪に関し,京都大学の研究グループから「三位一体説」が提唱されている6)。このモデルは,皮膚バリアと炎症に加え,「かゆみ(瘙痒)」にも配慮されていることがわかる(図2)。


すなわち,これらモデルから考えられるのは,アトピー性皮膚炎の発症と増悪への対策として,①バリア機能の補強,②サイトカインの抑制,③かゆみの軽減という要素に治療介入することが重要ということである。

そこで本稿では,これら3点の治療ターゲットから,最近のアトピー性皮膚炎の治療を掘り下げていく。

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