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旋尾線虫症[私の治療]

No.5060 (2021年04月17日発行) P.44

千種雄一 (獨協医科大学医学部特任教授/学長補佐(国際交流・国際支援担当),前熱帯病寄生虫病学教授)

登録日: 2021-04-18

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  • 1974年に腸閉塞疑症例の小腸壁内に幼線虫を見出したのが最初の報告である。後にこれが旋尾線虫類であることが判明した。旋尾線虫類はType Ⅰ~ⅩⅢに分類され,このうちのType Ⅹの病原性が最も強いことが実験的に証明され,人体症例では小腸・皮膚・眼に寄生することが報告されている。かつてホタルイカは限られた地域の特産品として,その地域のみで消費(生食)されていた。しかし,近年のコールドチェーンの輸送技術が発達し遠隔地への輸送が可能になったため,全国各地で同症患者が発生するようになった。なお,本病原虫はホタルイカのほか,スケトウダラ,ハタハタ,スルメイカからも検出されているが,内臓を除去せずに生食するのはホタルイカのみなので,実質的な原因食品はホタルイカである。

    スケトウダラから見出された幼虫とホタルイカから検出されたType Ⅹ幼虫の形態が一致し,併せて患者の病変組織からの検出幼虫の形態がType Ⅹ幼虫と同一であったことから,旋尾線虫Type Ⅹ幼虫はツチクジラに寄生するCrassicauda giliakianaであることが2007年に報告された。
    なお,本症に対する特効薬はない。

    ▶診断のポイント

    旋尾線虫症〔larval spiruriniasis(due to Crassicauda giliakiana)〕についての理解を深めるために基本的事項の再確認をする。寄生虫類は単細胞の原虫類と多細胞の蠕虫類に分類され,さらに蠕虫類は線虫類・吸虫類・条虫類にわけられる。この蠕虫類の中で,ヒト以外の動物を固有宿主とするものの幼虫が人体に侵入した場合,これらは成虫にまで発育できずに幼虫のまま人体内を移行して種々の症状・病態を呈することが知られており,これらを「幼虫移行症」と称する。幼虫移行症を惹起するものとして,①線虫類:イヌ回虫,ネコ回虫,ブタ回虫,アニサキス類,ブラジル鉤虫,イヌ鉤虫,広東住血線虫,顎口虫類,イヌ糸状虫および旋尾線虫,②吸虫類:宮崎肺吸虫,ムクドリ住血吸虫等,③条虫類:マンソン裂頭条虫,有鉤囊虫(症),包虫(症)等がある。「疾患メモ」で述べたように,旋尾線虫はType Ⅰ~ⅩⅢからなり,この中のType Ⅹ(Crassicauda giliakiana)が(人体)旋尾線虫症の病原体である。

    旋尾線虫症の病型としては「腸閉塞型」と「皮膚爬行疹型」があり,その発症機序・病態の詳細については解明されていない。腸閉塞型では腹痛・嘔気・嘔吐・下痢・小腸の部分的閉塞・口側の液体貯留等を呈し,場合によっては腹水貯留も認める。一方,皮膚爬行疹型では皮膚の紅斑や瘙痒感を呈し,皮膚の浅層寄生では皮膚爬行疹(いわゆる「ミミズばれ」)を呈し,そこに丘疹・水疱・膿疱形成を伴うこともある。深層寄生病変部では「硬結」が移動するという症状を呈する。本幼虫が前眼房水中に検出された報告もあるので,全身のどこの部位にも移動する可能性があると考えられる。診断的治療として,皮膚病変先端部位から虫体が移動していると考えられる方向を紡錘形に切除して虫体を検出できれば確定診断になる。

    診断のキーポイントとしてはホタルイカの生食歴が大変重要で,潜伏期は皮膚爬行疹型が長くても2週間程度,腸閉塞型が半日~数日であるので,生食日を勘案して診断の一助とする。また,ホタルイカ漁は3~8月なので,その季節性も診断根拠の傍証になる。そして,末梢血の好酸球増多および血清IgE値の上昇は重要な所見である。なお,生食時にはホタルイカの内臓除去,−30℃で4日以上凍結してから「沖漬け」にすることにより感染を回避することができる。また,中心温度を−35℃で15時間以上,または−40℃で40分以上凍結することによっても同様の発症予防効果がある。

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