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1月31日の奇跡[なかのとおるのええ加減でいきまっせ!(342)]

No.5053 (2021年02月27日発行) P.65

仲野 徹 (大阪大学病理学教授)

登録日: 2021-02-24

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二日酔いで目が覚めた日曜日、令和3年1月31日の朝。前日に委員長として記者会見に臨んだ国立循環器病研究センターの研究不正の記事が気になる。購読している朝日と日経、それから、コンビニで買ってきた読売を読んだ。少しずつ論調は違うが、それほど厳しい記事ではなくて一安心。

その日は、読売の読書欄に『縁食論』の書評も載った。書評を書いた仲野と委員長の仲野が同一人物と気づく読売新聞の読者はおられるだろうかと、ぼんやりした頭で考えながら二度寝したりして、1日ゆったり。

翌日の月曜日はシャキッとお仕事。夕方は、自宅から某大学の大学院講義をZoomでこなした。現地の教室とZoom視聴あわせて200名を超えるという自己レコードを記録し、気分良くリビングに移動。すると、妻が「昨日、朝日歌壇に載ったんやね」と。

へ? ホンマですか… 毎週日曜日は朝日新聞の歌壇の欄を楽しみにしているのだが、先に書いたような事情で前日は見ていなかった。でも、近所の人が喜んで伝えに来てくださったらしい。むちゃくちゃうれし~。

「冴えわたる最終講義さわやかに散髪された永田先生」

選者は馬場あき子さん。同じく朝日歌壇の選者である永田和宏さん─歌人としても細胞生物学者としても「超」のつく一流─を詠んだ歌である。「最終講義をZoomで見ました」とメールするより歌の方がおしゃれかと投稿した。もちろん知り合いだ。

「さ」音を続けているのと、「さわやかに」が講義と散髪のどちらにかかっているともとれるのでまぁまぁの出来かとは思っていたけれど、まさか採択されるとは。

しかし、じつはこれが2回目なのである。1回目は9年近く前で、その頃は、短歌を趣味にしようと添削講座を受けていた。

「ネイチャーに受理されましたと涙声君より知らず君の苦労は」

論文掲載が決まった直後に、筆頭著者が真っ先にかけてきた電話について詠んだ歌である。採択してくださったのはもちろん歌聖・永田。2回とも永田さんがらみなので、ちょっと下駄を履かせてもらったような気はするが、そこはまけといてください。

新聞社が違うとはいえ、同じ日に社会面と読書欄と歌壇に同一人物の名前が載るなどというのは、ひょっとすると新聞史上始まって以来の奇跡とちゃいますやろか。

なかののつぶやき
「何カ月か前に俵万智さんから歌集をお送りいただき、臆面もなく、昔、永田さんが朝日歌壇に採択してくださったことがあるんですとの自慢をお礼の手紙に書いたのであります。そしたら、『またぜひとりくんでいただきたいです』とお返事をくださいました。それがなかったら、今回の歌は作ってなかったかもしれません。で、やっぱりがんばろうと、また添削講座を申し込みました。我ながら調子に乗りすぎかも」

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