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COVID-19医療:日米の比較[エッセイ]

No.5049 (2021年01月30日発行) P.64

重野幸次 (静岡市立清水病院名誉院長・米国ノースカロライナ州ミルズリバー)

登録日: 2021-01-31

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現在の米国の医療制度は、日本のそれとはまったく異なり、理解できないことが多々あります。そこで、COVID-19(新型コロナ)医療からみた米国と日本の医療制度を比べながら、話を進めます。

日米の医療保険制度の異同

米国の医療保険は日本の皆保険制度とは異なり、任意保険(65歳以上の高齢者は後述するが、日本の制度と類似)です。各個人が保険会社との契約で医療保険に加入しています。大きな組織で働いていると、日本と同様、会社が保険額の一部の負担をしてくれます。また、個人(収入)によって保険料、医療費の自己負担額は異なります。医師の世話になることが少ない若者、保険料を払えない人(沢山いる)は、医療保険に加入しません。オバマ大統領は、このような無保険者をなくすために日本の国民健康保険に類似したオバマケア(ACA、2010年)を導入しました。この保険は、任意保険に加入できない多くの米国民が、その年収に応じて保険料を払い、比較的安い自己負担で医療を受けることができます。それでも米国には無保険者がまだ沢山います。オバマケアの年間の支払額は個人によって選択でき(税金の支払額で決まり毎年変わる―日本の国民健康保険と同じ)、自己負担額が20万~60万円以上になると(これは日本と異なる)、それ以上の医療費は無料になります。

米国で普通に働いている人は、毎年、社会保険料を払っているため、65歳以上になると年金が下り、医療は日本と同じ高齢者保険Medicareになります。収入がない人(65歳未満の生活保護者)には、Medicaidという医療保険があります。

現在の米国の医療は、50年前に私が米国の大学病院に勤務をしていたとき(日本のDPC導入前の医療保険制度とほぼ同じ)とは打って変わり、極端な制限医療となっています。医療は医療保険会社〔製薬会社も関与(?)〕によって支配されています。医師(病院)は保険会社のきまりに反する医療ができません。病院にかかると、その請求書は、患者、保険会社に送付されますが、保険会社は病院の請求書通りには支払わず、大きく査定した金額の大部分が医療機関に支払われ、その一部の患者負担分が、患者のところに送られます。日本では国保、社保の委員会がこれをしています。

日本も高齢化社会で医療費がかさむため、厚生労働省が医療保険制度、介護保険制度の改定、改革〔保険料を上げる、自己負担額を上げる、サービスを削る。検査、治療、入院期間の制限などを決めたDPS(疾患別包括医療制度)〕を実施しているのは、ご承知の通りです。米国では、医療制限が極端に実施されています。患者中心の医療と詠っていますが、字義通りの医療は行われていません。

入院すれば、必要に応じて胸部CTの検査はします。CT、MRIは病院、画像専門の施設以外にはなく、徹底的に無駄な医療はさせないということです。このような医療制度は、州によっても多少異なり、他の州で医療を受ける場合は医療費が変わります。医療保険によっては、州内で受診できる病院が決められている場合もあります。

新型コロナの検査体制は州によって違いますが、できるだけ多くの人が無料で受けられるような仕組みになっています。当地では、旅行などの理由で検査をする場合は有料(2万円くらい)です。検査は医療機関受診、指定された薬局、Telemedicine〔nurse practitioner(NP)が指導、自己拭いでのPCR検査、被験者は検体を所定の封筒に入れて送付〕などで受けることができます。日本で陽性者が少ないのは、いろいろな理由(政治的?)で、検査をしていないのでしょうか。日本では、新型コロナ関係の検査、治療の自己負担はありませんが、米国では州や加入している保険によって違います。単純X線検査と言えども、必要と判断されない限り撮りません(検査について医療機関で判断できない場合は、保険会社に問い合わせる)。しかし、お金があり、自費であれば、何でも(検査、治療)してくれます。お金次第ということです。

新型コロナ疑い患者の受診医療機関

新型コロナが疑われる場合は、まず担当医(かかりつけ医)に連絡をします。担当医によっては、診察、抗原検査を行い、高齢者などには副腎皮質ホルモンを処方してくれる場合もあります。担当医が診てくれない場合は、特定の救急医療機関(Urgent Care、日本にはない)を受診します。そこで新型コロナ感染の疑いがあれば、抗原検査、必要と判断された場合は単純X線検査まではしてくれます。新型コロナの疑いがありながら抗原検査陰性の場合はPCRをします。採血はしません。

Urgent Careで対応できない場合は1ランク上の救急医療機関(ER、日本の救急指定病院)を受診することになります。ERはUrgent Careと同様、待合室(2m間隔に椅子がある、新型コロナ疑いで受診の患者、無症状の新型コロナ患者、一般の救急患者がすべて同じ待合室)に空きがあれば、待合室で待ち、空きがなければ、車で待機します。呼ばれたら、ERの入口で体温を測り、新しいマスクを渡され、診察、検査を待ちます。ここでは、医師が診察、必要があれば、何でも検査できます。

抗原検査が陽性で、新型コロナであることがわかっていて、空咳が続き、高熱がみられる、倦怠感がある、息切れがする、SpO2が下がり気味になるなどの症状があれば、肺炎の疑いがあるため、入院も考え、ERを受診します。また、自宅でもできるパルスオキシメーター(SpO2)のデータは、在宅での経過観察上、大変参考になります。

米国では新型コロナであることがわかっても、軽症の場合は自宅療養(一般には、日本よりは家が広いが、狭くて大人数で暮らしている家族も少なくない―特に大都市)となりますが、家庭内感染のリスクがあることは目に見えています。日本のように、自治体がホテルを借りて患者を収容させることは、当地では考えられません。

隣のサウスカロライナ州では州知事が、感謝祭(11月26日)の前までに、すべての州民が抗原検査を受けるよう(州負担、大きな薬局などでも実施)テレビで放送していました。州によってまったく、その対応が異なるのも米国の特徴です。

感謝祭前後の状況

米国は11月26日が感謝祭で、すべての国民は自宅で、決まりを守って、感謝祭を迎えるように言われていましたが、飛行場は大混雑でした。どうしても家族の元にと言う場合は、自家用車の利用を勧めていましたが。感謝祭後、10日~2週間にさらに患者が増加することが危惧されていましたが、その予想通り、患者数は膨れ上がり、病院は患者で溢れ、トリアージが必要な状態になる一方、大都市はロックダウンの状態に逆戻りし、大変な状況になっています。日本も連休で観光地が混んでいたようですが、無知、自己中心的な考えの人はどこの国にもいるのですね。それにしても、米国は多宗教、多民族、多人種、個人主義が強く、統合するのは難しい国です。

米国疾病対策センター(CDC―健康に関する情報提供、健康増進を目的とする国家機関で、その活躍の場は広く、コロナ禍で脚光を浴び、日本もその新設が検討されている)は新型コロナの発生率、致死率に人種差がみられることを報告しています。新大統領バイデン氏も大変だと思います。

日本の対応

日本でのオリンピック開催、何を考えているのでしょうか? 信じられません。GoToキャンペーンも同様です。経済回復、新型コロナの医療対策、人命優先を同時並行して行うのは確かに大変ですが、今はやはり、新型コロナ対策を優先すべきでしょう。病院の崩壊を心配していますが、日本は新型コロナ検査(抗原検査でよい)をもっと沢山すべきと思います。抗原検査、PCR検査、抗体検査は、諸々の会社が有料で行っていることも聞きますが、米国食品医薬品局(FDA)お墨付きの精度の高い検査を然るべき施設で受けることが大切です。

日本では、新型コロナ関連の患者は、主に、呼吸器、感染症の専門医が、重症化するとICUでは麻酔科医、臨床工学技士などが関わります。したがって、患者が急増すれば、病床数の問題もありますが、専門の医療関係者が少なく、医療崩壊は目に見えています。米国では専門医以外の医師、看護師の再教育が行われています。既に引退した専門医、看護師の支援も仰いでいます。

ワクチン接種

米国では先日、FDAがワクチン使用を緊急認可しましたが、まだ、その安全性、有効性には不安を感じています。ワクチン接種は12月14日から開始されましたが、 当地では、既に接種場所(大きな専門薬局なども含む)、接種の優先順位も決められており、医療(歯科関係、COVID-19を扱う検査技師、心理士、リハビリ職など含む)、介護および福祉関係者、老人施設入居者、65歳以上の高齢者、がんで治療中の人、糖尿病、慢性腎疾患、慢性閉塞性肺疾患、重症の心疾患、鎌状赤血球症、BMI 30以上の肥満者、臓器移植を受けている人などが優先的に接種できます。なお、子ども、妊婦についてのデータは不明です。

ワクチン接種は強制できず、米国では様々な理由(個人的)で拒否する人もおり、接種者数がどのくらいになるのかわかりません。先のことになりますが、海外渡航時には、ワクチン接種が義務化されることも予想されます。

12月3日、横浜市立大学で行われた大規模な抗体検査(横浜市大で開発)成績の発表では、軽度から重症の状態から回復した患者の、発病6カ月後の中和抗体は、平均すると6カ月時点でも、ほとんどの人が陽性であったとのことです。つまり、一度感染すると、少なくとも6カ月間は再感染することが少ない可能性があるという成績でした。


世界中がcorona pandemic、病院崩壊に直面している中では、難しいことであると思いますが、新型コロナ感染症の診療では、人種、民族、遺伝因子、環境因子から生活習慣まで、患者側の多くの個人的因子も関係していることを念頭に置いてみることが大切だと思います。新型コロナ治療は世界中で、その治療成績が日々、蓄積、解析され、日進月歩の状態です。今後、安全、安心、有効な抗ウイルス薬の開発と、欧米で接種が開始されたワクチンの成果に期待しながら筆を措きます。

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