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争うからこそ人間であるが、協力する人間こそが勝ち残る[炉辺閑話]

No.5045 (2021年01月02日発行) P.88

坂本泰二 (鹿児島大学病院病院長・眼科学教室教授)

登録日: 2021-01-04

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幼少期から今まで、身の回りや社会を見てきましたが、人の世には争いや諍いが絶えることがないことが不思議でした。宗教、政治はもとより、隣近所や友人の間など、かつては仲が良かったのに諍いの結果、疎遠になることは珍しいことではありません。最近の出来事を考えても、つまらない諍いのため病院運営が滞ったことがあり、その愚かさにため息をつくことも度々です。青臭い話ですが、私は人間が争わないで済む方法はないのか、ということをずっと考えていたように思います。

そんな時、哲学者Harariの著作「Sapiens」を読み、非常に感銘を受けました。同書は世界的ベストセラーでご存知の方も多いでしょうが、日本語版が出る前にスイスの製薬会社幹部から紹介されて読みました。特に衝撃を受けたのは以下のことです。生物は進化によって大脳皮質が発達し、それがあるレベルを超えると自分と他者の違いを抽象的に理解するようになる。これが人類の始まりで、その結果、他者を排除するようになった。アフリカで誕生した人類が、きわめて短期間に南アメリカの南端に達したのは、食料を求めた移住というより他者を排除するという本能による諍いの結果であるという解釈です。つまり、抽象的思考を可能にする能力は、人間を人間たらしめる本質であり、その結果としての争いは避けられないということになります。誠に悲しい話です。

ただし、救いもありました。争いの中で勝ち残ったのは、優れた個体ではなく、周りと協力することができた個体であったとのこと。個体としての能力で勝っていたネアンデルタール人に人類が勝ったのは、人間の協力の結果であり、人類の歴史で勝ち残った者は他者と協力した個体であることも強調されていました。その目で見ると確かにそのとおりです。若い時に才能で光り輝いていた人物がその後鳴かず飛ばずであった場合、協力する力という点で問題があった例は容易に思い浮かびます。諍いを無くすなどという無駄なことを考えずに、協力の大切さを説いて組織運営に当たるほうが、人間社会では効果的なようです。

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