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インスリン発見100年[炉辺閑話]

No.5045 (2021年01月02日発行) P.79

小野百合 (小野百合内科クリニック院長)

登録日: 2021-01-03

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2021年はインスリン発見100周年に当たり、糖尿病を専門としている私にとって感慨の深い年である。イスンリン発見以前、1型糖尿病は止まることのない激しい喉の渇きとともに死に至る病であった。1918年からのスペイン風邪が猛威を振るう中、第一次世界大戦から帰還した整形外科医のフレデリック・バンティングはインスリンを発見する。膵臓の抽出物を精製しインスリンを作製することは、多くの研究者があと一歩のところまで近づいていたが、成功には至らなかった。バンティングと他の研究者の違いは、多分、その粘り強さだったのかもしれない。発見から数カ月のうちに企業の協力によりインスリンは大量に生産され、多くの患者の命を救った。

月日が流れ、インスリンはウシ・ブタ膵臓の抽出物から遺伝子組み換えヒトインスリン、さらにアナログインスリンとなり、より早く、またはより長時間持続し利便性が飛躍的に改善した。また、人工膵臓に近いインスリンポンプも実用化されている。1型糖尿病の妊婦さんからは次世代の子ども達が当院でも多数誕生している。すべては100年前のバンティングの奇跡の発見から始まっているのだ。

2017年8月、私はトロントでインスリン発見にまつわる希少資料を保存しているトロント大学Thomas Fisher Rare Book Libraryに立ち寄る機会を得た。学芸員がインスリンの恩恵に与った人々の写真の数々、バンティングがインスリンの抽出を閃いたメモなど、一つひとつを丁寧に説明してくれた。一片の紙に手書きされたメモであったが、ここからすべてが始まったのだ、と私は感動した。

振り返るに、現在、新型コロナ感染症が猛威を奮っている。この感染症の猛威の中、新しい医療の道を切り開くのは誰であろうか。それは日本から出るのであろうか。そうなってほしいと私は思う。

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