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「日本人・外国人」考[炉辺閑話]

No.5045 (2021年01月02日発行) P.70

守屋章成 (厚生労働省名古屋検疫所中部空港検疫所支所空港検疫医療管理官 )

登録日: 2021-01-03

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空港の検疫所で勤務していたある日、航空関連会社の職員(日本語話者)から、到着予定の国際便について電話連絡があった。「搭乗客の中に日本人が○名おられますが、本物の日本人はそのうち●名と思われます」。我が耳を疑った。「本物の日本人」とはいったい何だ? 「偽物の日本人」がいるのか? 偽造パスポートか? 「日本国籍だが、ミドルネームがある等の外国流の姓名のため、日本語ネイティブではない可能性がある搭乗客がいる」と言いたかったらしい。悪意のない発言だったようだが、こういう認識から差別が生まれるのではないかと危惧した。

この地球には、様々な「日本人」と「外国人」が住んでいる。先祖をどの時代まで遡っても外国出身者との血縁が確認できず自分自身も日本国籍者である「日本人」。両親の一方が日本国籍、他方が外国籍で、二重国籍のまま日本で生活する未成年の「日本人兼外国人」。日本名を名乗り日本語ネイティブで日本文化の中で育ち、本来の国籍は周囲に知らせずに生活している「外国人」。日本国籍を有しているが一度も日本で暮らしたことがなく、日本語も日本文化もまったくわからない「日本人」。外国籍者が帰化した「日本人」。外国籍だが日本で生まれ育ち日本語と日本文化しか知らず母国語が話せない「外国人」。日本国籍のみを有し日本語と日本文化で育ったが外国人との混血による風貌から「ガイジン」と呼ばれてしまう「日本人」。

お気づきのとおり、上記たとえの「 」内はすべて国籍に基づく記述である。他者が言及することが許されるのは国籍のみではないか。「私は◎◎人である・ではない」と名乗るのは本人のアイデンティティーの問題であり、他者が安易に指摘できることではない。

そして、国籍で線引きするが故に、コロナ禍の外国人入国制限のため何カ月も日本と外国で離ればなれになった家族が多数発生した。「外国人」であるが故に日本に入国できなくなった家族の一員が多数いたのである。
「本物の日本人」とは、いったい何だ?

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