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弁護士からのお願い[炉辺閑話]

No.5045 (2021年01月02日発行) P.63

三谷和歌子 (田辺総合法律事務所・弁護士)

登録日: 2021-01-02

最終更新日: 2020-12-22

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病院から医事紛争の解決を依頼されるとき、依頼者である病院が医事紛争に慣れていないと、スムーズに進まないことがあります。受任にあたり、私が依頼者にお知らせすることは、以下のとおりです。
まず、事実を正確に教えてください。どういう症状があって、どういう検査をして、どういう結果が出たから、このような治療をした、と、時系列で整理していただけると助かります。その際には、記憶だけを頼りにすると、客観的なデータと齟齬が生じる場合があります。客観的なデータを時系列に並べ、そこに記憶をあてはめていったほうが、正確な流れがつかめることが多いです。

次に、カルテ等の医療記録は、できるだけ早く弁護士に送ってください。医療記録は「すべて」でお願いします。紙カルテの場合はファイルを丸ごとコピーすればいいのですが、たとえば手術データが電子カルテシステムとは別で保存されている場合は、漏れることがあります。打ち合わせ中に「あのデータがあった」と言われても、その場で対応できません。医事紛争を受任する弁護士、判断する裁判官は、基本的に医療に関して素人です。東京地裁医療集中部の裁判官や医療専門の弁護士は、一般的な同業者に比べて医学知識はありますが、やはり素人です。弁護士もできる限り事前調査はしますが、専門用語(特に略語)を突然言われてもわかりませんし、医療者には当然の医学的機序も一から説明が必要だったりもします。

事実関係に争いがなく診療の適否が争点となっている場合、診療の正当性を判断する有力な材料は医学文献です。「みんなそうやっている」と主張しても、裁判官は簡単に「そうですか」とは言ってくれません。基本的なことほど文献の記載がないこともあり、基礎の基礎の内容だと、研修医用・看護師用の教科書まで遡ることもあります。

医事紛争を扱っていると、弁護士と医師の意識の差を感じることもあります。病院には、こんな細かいことまで、と鬱陶しがられているのだろうと恐縮しながら、ご理解ご協力をお願いする毎日です。

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