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普通の人が普通に働ける病院をめざして[炉辺閑話]

No.5045 (2021年01月02日発行) P.60

佐田尚宏 (自治医科大学附属病院病院長・外科学講座消化器一般移植外科学部門教授)

登録日: 2021-01-02

最終更新日: 2020-12-22

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病院管理に従事したこの6年間、特定機能病院承認要件の変更、医療事故調査制度、地域医療構想、医師の働き方改革、そして新型コロナウイルス感染症(COVID-19)と、対応に苦慮する課題が次から次へと提示され、医療を取り巻く環境は激変しました。社会的にも経済的にも人類に大きな打撃を与えたCOVID-19から得た教訓は様々で、医療は100年に1度の厄災にも備えなければいけないということ、歴史は繰り返されるということ、そして失敗も繰り返されるということでしょうか。

このように不確実性が増したポストコロナ時代においても、私達医療人は次世代のために医療の持続可能性(sustainability)を考えなければいけません。そのためには「普通の感覚」こそが重要と、最近強く感じています。医師の多くは、「普通は過労死ライン」とされる月80時間以上の時間外労働を行っています。今までの医療を支えてきたのは、多くの医療関係者の「普通ではないボランティア精神」でした。これからも医療の質を向上し、2040年まで増加する医療需要に対応するためにも、「普通の人が普通に働ける」環境を整備することが医療全体に必要です。「普通の人が普通に働ける」環境とは、「多様性(diversity)を許容する」環境です。
私が外科医局の運営で学んだことは、ワーク・ライフ・バランス、女性の活躍など、「働き方の多様性」だけではなく、「考え方の多様性」を許容することが組織を活性化するということでした。「こうあらねばならない」的な発想は、強く共鳴する人々がいる一方、まったく受け入れない人の割合も多くなります。働き方改革も、地域医療構想も、現状でできることを考えるのではなく、普通の人が受け入れられる完成型をまず考えること、そしてその完成型に向かって現状を変えていくことが、若い有能な人材を医療に引き寄せ、医療のsustainabilityにつながります。分断ではなく協調が医療の世界を救います。少なくとも、病院運営ではそう信じたいな、と考えています。

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