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医師としてのバランス感覚[炉辺閑話]

No.5045 (2021年01月02日発行) P.13

田村遵一 (群馬大学医学部附属病院病院長・総合医療学教授)

登録日: 2021-01-01

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医師になりたての頃、ある大先輩から「医師はバランス感覚が大切だ」と教わったことがある。診察の際にも、患者さんの苦衷に対しての同情、共感といった、相手を思いやる態度が大切だ。しかし一方で、今この患者さんに何が起こっているのか、という科学的な思考も同時に必要であり、このバランスが重要である。これがないと、ただの相談員となってしまう。また、前者の態度、配慮が欠けていると「冷たい医者」と言われる。

研究活動においても純粋に興味を追究するだけでなく、結果の発表法や研究費助成申請までのタイムスケジュールなど、いわゆる「余分なこと」もうまくバランスをとって考えていかないと自己満足の世界に落ち込む。

私は44歳で新設の総合診療部教授を拝命し、以後20年余にわたり様々な課題に直面してきた。まずはスタッフ募集が最初のテーマで、診療が得意で研究論文も頑張って書いている有能な人たちが参加してくれた。皆気心の知れた、まさにバランスのとれた人材で、年齢も近いせいか楽しいチームであった。私の育った医局では、教授は「天皇」と呼ばれていて、総合診療部は反対の体制をめざした。しかし、現在では、スタッフは世代交代により私よりずっと若くなり、相対的立場は変わった。もはや友達感覚ではすまなくなり、教授としての権威主義と民主主義のバランスをうまく使いわけないと日常業務が進まない。

2015年から私が病院長として、医療安全体制の充実を主題とする病院改革に取り組み、職員の努力と外部からの多くのご支援をいただいた。この取り組みの過程で病院経営と医療安全に対する投資の問題など、あらゆる面でバランスを意識させられた。

バランスの大切さを実感させられた医師人生であったが、バランス感覚は現状をいかに維持するか、の基本であり、まったくの新機軸を生み出すためにはこのままではダメだ、と病院長を退任する今になって改めて思う。

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