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外科医を辞めるということ[炉辺閑話]

No.5045 (2021年01月02日発行) P.7

島田和明 ( 国立がん研究センター中央病院病院長)

登録日: 2021-01-01

最終更新日: 2020-12-21

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「医者は定年がないのがいいね」と言われることがある。自営ではない医師も定年後は、意欲さえあれば仕事を探すことは難しくない。外科医の場合はどうであろう。先日同窓会で、大腸がん手術の名手である外科医師が、メスを置き、緩和医療を行っているという話を聞いた。麻薬処方など慣れない診療を一から勉強したに違いない。きっぱり外科医を辞め、新たに緩和医療を選択したことに感動を覚えた。

外科医もスポーツ選手のように年を重ねれば、体力・集中力・持続力が衰え、質の高い手術を維持するのは難しい。自分のことを客観的に評価し、どのような形で患者さんに貢献できるかを冷静に判断することが、名医の条件かもしれない。

国立がん研究センター中央病院に赴任して以来、30年間肝胆膵外科の手術を行ってきた。「病院長に就任してからも管理職の合間に手術をしたらどうか」とたびたび言われた。我々の診療科では若手やベテランを問わず、初診から手術・術後管理・退院後経過まで主治医が責任をもって診療する。外科医の仕事とは手術を執刀するだけではなく、その前後にわたり患者さんとの信頼関係を築いてこそ成立するという考え方が伝統である。マラソン選手と同様に、外科医も常に切磋琢磨していないと良い結果をもたらすことはできない。中途半端に手術を続けることは患者さん対し失礼である。外科医の潮時を考えていた時に、有無を言わさず辞めることになったのは幸運であろう。

国立がん研究センター中央病院は特定機能病院・臨床研究中核病院・がんゲノム医療中核拠点病院である。病院長の責務は重大であり、多くの解決すべき課題が山積している。外科医として経験してきたことを礎にし、医療だけでなく広い分野の知識の習得と新しい課題への柔軟な対応が必要である。多くのことをいろいろな方々に教えていただき、周囲の人の温かい助言に感謝である。還暦を過ぎメスを置いた一人の人間として、初心に戻り院長業務に振り回されている一生懸命の毎日である。

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